2008-10-26

林田紀音夫全句集拾読 041 野口 裕


林田紀音夫
全句集拾読
041




野口 裕




傘を支えて黄にも赤にもはばたく児童

青い胎児傘をひらいた日も培う

昭和三十九年「海程」発表句。二句は連続して置かれている。二句とも句集未収録。

一読して、次の句が思い浮かぶ。

黄の青の赤の雨傘誰から死ぬ

第一句集『風蝕』におさめられた句である。この句は、昭和三十二年「青玄」および「十七音詩」に発表されている。

「青玄」では、句集未収録の

放射能雨かつくばふ子らに砂濡れ出す

と並べられる。

「十七音詩」では、この句の前後に、

恋の映画観に雨靴の足太し

原爆症死なほ赤い雨傘の行方も濡れ

の二句がある。これらの句は句集におさめられている。

「原爆症死」の句、「青玄」では「原爆死」とされて十一句あとに、
第一句集では、「黄の青の…」の直前に置かれている。

余談だが、「恋の映画…」は、

ロシア映画みてきて冬の人参太し 古沢太穂
秋風やかかと大きく戦後の主婦  赤城さかえ

などの句が思い浮かぶ。

最初の二句に戻る。

紀音夫の長女誕生直前の時期に、かつての自作の発想がそのまま援用されている。後句の「青い胎児」は、やや不気味に響く。

「十七音詩」で同時に並べられた句から見て、「誰から」の句には、子供の死が連想されている。それがそのまま、我が子誕生直前の時期に思い起こされた、ということだろう。

吾子俳句にある死の影は、相当根深い。

かつては、「恋の映画…」で、今回は「…はばたく児童」でバランスを取ろうとした。だが、どうにもうまくいかない。根深い句の前に出ると、影が薄い。



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