2009-01-11

山口東人30句テキスト

山口東人30句


耳飾り外して笑ふお金持ち
路肩からのぞむ梅が枝すこし泣く
春の山太田トラなる仲居ゐて
カーテンのはさまつてゐる扉かな
語り部の眼鏡の横のパセリかな
技術者が蝉とりにゆく若狭湾
夏の風邪普通の熱でないやうな
うな丼の器が無地の杉並区
散歩者が網戸のそばを通りけり
絶望の九回裏の西瓜かな
橋梁に嫌ひな虫が這つてゐる
ヘルパーさん野菊のやうな文字を書き
消火器を倒さうとする子猫かな
女子といふことばはすでに秋めいて
つまづいて笑ふ大人や茸山
電車過ぐ桃一列を買ふ夜かな
星が流れて帽子屋に問題児
白衣着て秋の棚田を見下ろせり
カンナ咲く便利な伊藤仏具店
無月だとヒゲタ醤油のはうがいい
ブリキ屋に双子の生まれ霜柱
肌寒やセーラー服を吊るす家
すゞ虫やテレビの男茶漬け食ふ
馬喰横山見知らぬ国の毛皮吊る
感冒や惑星までの距離を訊く
白鳥を見る将軍の臀部かな
原発を借景にして毛糸編む
鮟鱇と万年筆で書きにけり
蒲団屋の命の果てのやうな柄
加湿器を平和島まで運ぶ人

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