2009-08-23

林田紀音夫全句集拾読 081 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
081




野口 裕





鶏頭に明るさ残る日の途中
鶏頭に四五歩のところ嬰児立つ

平成元年、「花曜」発表句。一句目は、同年「海程」発表句でもある。二句目は「海程」には取られていない。一句目は無難だが、面白味に欠ける。二句目は、子規の「十四五本」との比較で微妙だが、軽妙なずらしとも受け取れ、ずらしに失敗しているとも受け取れる。その判断が、「海程」未発表につながったか。いずれにしろ、この嬰児には生命感溢れた不気味さがある。

 

白髪を足す土砂降りの中心に

平成元年、「花曜」発表句。激しい雨の中に飛び出していったことを、あたかも上空から俯瞰するかのようにとらえた。作者のやや古びている肉体は雨の中にあり、作者の意識は上空から俯瞰する位置にある。作者の意識は、肉体の行為に何らの意味も見いだしていない。分裂したまま、行為を眺めている。

 

葉桜の葉のひそひそと夜気流れ

平成元年、「花曜」発表句。葉桜には、祭りの後という雰囲気がつきまとう。葉擦れの音が繰り言めく。何も起こらないまま夜が来る。

 

顔消して来る幾人か秋の暮

平成二年、「花曜」発表句。向こうからやってくるのは、旧知なのか、通りすがりなのか。暗くて顔の輪郭もよく分からない。日暮はよくあるのだが、「秋の暮」は彼の句としては珍しい。

0 comments: