日曜のサンデー その2
中嶋憲武
ヒノコさんと海に来ている。
東京湾の片隅の人工渚である。
遊泳禁止なので誰も泳いでいる者がない。みな磯遊びに専念している。
海へ来ちゃったねぇ。そうだね。わっ。かもめがこっちへ低く飛んで来たよ。そうだね。
ヒノコさんはスカートの裾をつまんですこしばかりたくし上げ、ざぶざぶと海へ入って行った。ぼくは丘の上の愚か者のように、途方に暮れてしまった態で渚に立ち尽くす。そのように立ち尽くしている男たちのなんと多いことよ。空気がべとべとする。雲の動きが速く、日が照ったり翳ったりする。
どうして子供って砂を掘るんだろうね。水が沁み出してくるのが面白いんじゃない。あんなに高く砂のお城を作ってるよ。ありゃあ、そのうち崩壊するよ。
ぼくとヒノコさんは、舟虫のざむざむざむざと走る岩を踏みしめて、芝生の上の青いタープの下へ入った。天気雨がものすごい勢いで降ってきたからだ。
きらきらと降る雨のなか、人々はきゃあきゃあ言いながら遊び呆けている。雨に濡れてもまったくお構いなしだ。それはここが海で季節が夏だからだ。
青いタープの下で、こんな場面どこかで見たことある。と、ヒノコさんが言った。ぼくもこんな映画見たことある、と言った。雲は、売れない絵描きが裏町の看板にペンキで描いたような色と形をしてどこかへ急いでいた。
雨があがる。ぼくたちはいま、目覚めたような顔をする。
猫がピアノを弾いているみたいな午後だねとヒノコさんは言って笑った。
1 comments:
>猫がピアノを弾いているみたいな午後
いいですね。
猫の動画も、いいですね。
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