2009-08-30

飯島晴子三十句抄 山田露結・抽出

飯島晴子三十句抄     山田露結・抽出

「銀化」(2009年2月号)より転載

一日の外套の重み妻に渡す

『蕨手』

泉の底に一本の匙夏了る

これ着ると梟が啼くめくら縞


殻の湿りを父の杖通る

一月の畳ひかりて鯉衰ふ

螢とび疑ひぶかき親の箸

逆上の人枯葱をかゞやかす

樹のそばの現世や鶴の胸うごき


『朱田』

天網は冬の菫の匂かな

冬の帯あまたの鳥の棲み合はせ

襖しめて空蝉を吹きくらすかな

人の身にかつと日当る葛の花


『春の蔵』

樹の下に俤ありて氷張る

わが末子立つ冬麗のギリシヤの市場

昨日から盥の上は花ふゞき

鶯に蔵をつめたくしておかむ


『八頭』

いつも二階に肌ぬぎの祖母ゐるからは

茶の花に押しつけてあるオートバイ

八頭いづこより刃を入るるとも

禿鷲の翼片方づつ収む


『寒晴』

凍蝶を過ちのごと瓶に飼ふ

寒晴やあはれ舞妓の背の高き

男らの汚れるまへの祭足袋

『儚々』

初夢のなかをどんなに走ったやら


今度こそ筒鳥を聞きとめし貌
 (「貌」に「かほ」とルビ)

白髪の乾く早さよ小鳥来る

さつきから夕立の端にゐるらしき


『平日』

竹馬に乗って行かうかこの先は
  (「七十五歳の誕生日に」と前書)

螢見の人みなやさし吾もやさし

丹田に力を入れて浮いて来い


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