2009-11-01

〔週俳10月の俳句を読む〕小林苑を 盗んだのは誰だ

〔週俳10月の俳句を読む〕
小林苑を
盗んだのは誰だ



『泥棒 ピーターとオードリー 』太田うさぎ

映画『おしゃれ泥棒』の世界なのだろう。そういえば主人公の父親は贋作の凄腕という設定だった。映画を知らなくとも、タイトルからしていい男といい女の話に違いなく、このドラマ仕立てがなんとも愉しい。一句目「屋根裏の丸窓」なんて日本じゃないよななどと思っていると、丸い木の実が降ってシーンは外へと展開していくのである。

流星やネグリジェに長靴を履き
  太田うさぎ(以下同)

流星を見るために、寝間着に長靴を履いて外に出る。こういう日常の中の非日常は、誰でも経験する。この一寸した非日常が流星という宇宙の出来事とつり合う。巧い仕立てだ。流れ星もネグリジェと長靴のもたらす身体的違和感も等しく心をざわめかせ、故にエロティシズムの領域に踏み込むのである。蛇足ながら、ネグリジェだからではない。ま、少しはある。

掃除婦の馬穴の中のななかまど

むろん、掃除婦は灰色で煤けた雰囲気でなければならない。馬穴の表記がそれを補完する。掃除婦、バケツ、と移動する目線が最後にななかまどの赤を捉える。ななかまどは燃え立つように赤い。おしゃれな句。ところで、『泥棒』20句には烏瓜やカンナの赤も登場する。偶然にしては多いと思うのだが、どうだろう。

菊人形非常事態のベルの中

そもそも菊人形とは怪しい存在である。非常ベルがなっても表情一つ変えない。そんな動かざる菊人形であればこそ、ベルはますます烈しく鳴っているように思えるのだ。ここでも『泥棒』の文脈で読むことをお許しいただきたい。この菊人形、誰かが身を隠すための変装だって気もするのだ。ほら、映画でよくあるじゃないですか。

爽やかに返す婚約指輪かな

返すのは女だろう。たぶん、たぶん女性にとってやってみたいことのひとつじゃないかと思う。婚約までいった男と別れることになるには、それなりの事情って奴があるはずだが、はっきりしているのは理由の如何に関わらず婚約解消で気分がスッキリしてるってこと。大袈裟に読めば、かって女性にまとわりついていた結婚という枷が外れる音だって聞こえるではないか。

取り上げなかった句も、どれもドラマ性を帯びて思いっ切り遊んでいる。大統領だって自家用機だって登場する(どちらも季語を上手くドラマに取り込んでいる)のだ。この試み、盗んじゃおっかな。




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酒井俊祐 衛生検査 10句  ≫読む
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