2010-03-21

オーロラ吟行 第1日 フェアバンクス行最終便〔前篇〕猫髭

オーロラ吟行
第1日 フェアバンクス行最終便 〔前篇 ……猫髭 (文・写真*)



2010年3月7日(日):成田発シアトル経由フェアバンクス

アラスカのアンカレッジ在住の柿崎りんさん(註1)と、フェアバンクスでオーロラ吟行をやろうと、老僕猫髭(註2)を露払いに、大君作山薫子(註3)、中の君遠藤千鶴羽(註4)の動物句会(註5)トリオが、成田空港発シアトル経由フェアバンクス行デルタ航空便に搭乗。りんさんとは去年の夏、彼女が日本へ里帰りしたとき以来の再会となる。

この企画は、もともとは10名前後の関東組と関西組の俳人たちが関空で合流して出発する予定が、主催者のお祖母さんが105歳で大往生を遂げ、一族を上げての葬儀のため参加できなくなったので一端棚上げになっていたものだ。しかし、3月でなければ渡米の機会が取れないというメンバーだけで行くことになって、直前にわたくしに引き継がれた。急遽日通に成田からの格安券の手配をしたところ、オーロラが見えるフェアバンクスという町はカナダだと思っていたらアラスカだったと初めて知ったほどの、猫髭さんたら世界的方向音痴。

アラスカの方も、オーロラ観光のガイドをやっていたNさんが急病で参加できなくなり、りんさん一人がNさんのリコメンドするロードマップ一枚を頼りにドライバー兼ガイドを担当する事態。かくて、オーロラ吟行ツアー・コンダクターを日米で欠いた四人がマイナス30℃の極寒地で再会することにあいなった。

成田空港からは、デルタ空港でシアトルまで約7時間。15:00に成田を発って、日付変更線を越えるので、時差調整でその日の朝に逆戻りして6:55シアトル着。シアトル発18:55でフェアバンクスに着くのが夜の21:42なので、シアトルに着いてから丸々一日時間があるため、シアトル観光でもしたらというりんさんの提案で、たまたま長男のカム君がワシントン大学の3年生で、午後からのガイドを買って出るという申し出があり、それはありがってと感謝すれば、カム君からは、ダウンタウンのスターバックス一号店の前のパイクス・マーケットに隣接するスタインブルックパークで14:00に待ってますというメールが来た。OKと言いたいところだが、どこそれ?

まあ、行けばなんとかなるべさと、機内の人に。
機内は各座席に小さなディスプレイが付いていて、映画やゲームが見放題やり放題。おお、マイケル・ジャクソンの「This is it」があるではないか。こんなもんだ、という機内食を食べた後は、寝るか映画を見るしかないから、映画好きの猫髭は画面に齧り付き。マイケル・ジャクソンのダンスには興奮した。彼だけではなく、彼のチームとの結束が素晴らしい。

4本目の映画の途中で、着陸のアプローチのアナウンス。窓外からは朝焼のシアトル湾が浮かび上がり、朝靄の中から岬が現れ、夢のようにスローモーションで曙紅の色調が変幻する様は美しい。見惚れているうちにずずんと着陸した。

シアトル・タコマ空港で入国審査。犯罪者のように両手の指紋と顔写真を撮られて、税関を出、バッゲージ・クレイムで荷物を引き取り、フェアバンクス行のデルタ空港の乗り継ぎ便荷物預かりのベルト・コンベアーに載せて、シアトル見学へいざ出発。

タクシーだとダウンタウンまで40$くらいかかるというので、2$50¢で行ける電車を利用しようと、モノレールで電車のあるターミナルまで行って、とことこ電車乗場の無人切符販売機まで到着。しかし、どこにもカム君が言ったスターバックスもパイクス・マーケットも駅名にない。行き先がわからなければ切符も買えない道理である。おののがた根岸の子規庵へ行くから鶯谷駅に集合、というのとはわけが違う。しかも、誰もシアトルの地図すら持っていない。だいたいシアトルがどこにあるのかすら、アメリカの地図を出されてもわからんのではないか。かくいう我輩も、左側の上の方だろう、ぐらいしかわからん。

とその時、黒人の駅員が寄って来て、サー、お困りかと聞く。はい、お困りです。パイクス・マーケットへの最寄の駅を教えてくんなまし。「大学通り駅」を降りて3ブロックくらい先だと教えてくれる。ご親切にも切符の買い方まで御教示。実にジェントルなおっさん。ところが、エスカレーターを上がると、電車は止まっているのだが、ドアが閉まっている。ハテナと首を捻っていると、さっきの親切な駅員さんがエスカレーターを上がってきて、ドアの赤いボタンを押せば開くと言う。あ、開いたあ。どうもこいつらは心配だと後をつけてきてくれたらしい。小さな親切大きな感謝。

と思ったのも床の間。何駅か走ると社内アナウンスが、この電車は次がラスト・ストップと言う。事故か故障か全くわからず、とっとと降りろと言うメリーさんメリーさん、ここはどこ。駅員が外のバス停に何番のバスが来るから、切符を見せれば行きたい場所まで連れてってくれるという。果たして、バスが来た。これがバス2台を蛇腹でくっ付けたようなでかいバス。


どこをどう走ったのやら、着くたびに、駅名を確認するうちに、「大学通り駅」の表示が。ここだとばかりに降りると、ここから3ブロック先と言っていたが、それが東西南北どちらへ向かってなのかがわからない。もともと地図を上下左右で読む猫だから東西南北で言われてもわかんないけどね。わからない時はわかっていそうな人に聞く。で、お掃除をしていたレレレのおじさんに聞くと次の角を左へ下りたところだという。
シアトルはスターバックス発祥の地で、スタバが佃煮にするほどあるが、本店は緑色ではなく、茶色のマークだと言う。大君があれかしらと指す方を見ると、緑色のマーク。姫、色盲じゃないよね。ともかく指示通りに、下りてゆくと、おお、まさしく茶色のマークのスタバ発見。目の前はパイクス・マーケット。隣は昼間からピンクのネオンちかちかのストリップ劇場。わお。しかし、市場の前は小さな広場だが、どう見ても公園ではない。


まだ9時前で約束の時間まで大分あるから、市場を散歩をすることに。
猫髭は海外でも国内でも初めての町へ行くと必ず、市場やスーパーを見て回る。どういう食べ物をどうやって食べているのかを知るのが一番地元の人の暮しがわかりやすいからだ。人は衣食足りて礼節を知る。だから、食文化とファッションを先ず見る。地元の人がおいしいという物をおいしいと感ずれば、何とかその地元に溶け込める。地元の人のファッションが格好いいと感ずればより楽しめる。だから、最初に覚える言葉は「うまい」を何と言うかである。「格好いい」を何と言うかである。で、アメリカではマウイ!はyum-yum、カッチョええ!はcoolである。ヤムヤム!クール!これでアメリカはどこ行ってもOKね。キスしても、ヤムヤム。確かゲーリー・クーパーが『紳士同盟』で、ヤムヤムいいながらキスしてた。そういう機会があればだが。

市場入口左手に魚屋がある。白人の女性、観光客だろう、が珍しがって近撮していて、悲鳴を上げて飛び退ったので見ると、何とわたくしの郷里茨城の名産鮟鱇が生きていてバクッと口を開けて棚からずり落ちて飛び出している。Hello! I’m a Monkfish!


この店は、魚が売れると酉の市で熊手が売れた時のように、客と一緒に手拍子掛け声で魚を放り上げて板場に渡す趣向で、ショーの好きなアメリカ人が面白がって取り巻く。しかし、鮟鱇をどうやってこちらでは食うのだろう。鍋を箸で突付きあうなんてえ発想はこちらにはない。フライにするのだろうか、鮟鱇の七つ道具を?

右手は花屋・八百屋・肉屋・パン屋・お菓子屋と実にカラフル。チョコレート・スパゲティやラズベリー・チョコなどを試食しながら歩く。店員さんはみな陽気で親切。こちらに来て驚くのは食材のヴォリュームたっぷりなこと。ミルクなんてプラスティックのガソリンタンクに入っているようなでかさで、牛が飲むのか。エレファント・ガーリックは名前も凄いがでかいもでかい、隣のマンゴーよりでかい。ミニトマトのぴかぴかして綺麗な事。しかし、林檎などワックスで磨いているのだろうか、ちょっと皮ごと齧る気がしないほど光沢が異様に凄い。お、この林檎は日本の「ふじ」ではないか。アップルパイにすると皮が薄く、酸味も爽やかなので好まれるのだろう。


店先には様々な唐辛子がカラフルに吊り下げられていて、時差ぼけの目を覚ましてくれる。

ここらでやっぱりスタバの一号店に入ってコーヒーを飲まねばと一同御入場。実に品数豊富でどんな味か想像が付かず、注文の仕方がわからない。サイズもLMSではなくてTallとか何とかどう発音すればいいのか。しかも、大きさが半端ではなく、とりあえずこの辺りはパイクスと言うので、パイクス・ローストのMサイズを頼んだら、これはどこから見てもXLサイズじゃろうがというのがごっぽり出てきた。店の奥では、パソコンやチェスをのんびりやっている。


お腹ガボガボになって出ると、案内所があったので中の小父さんに聞くと、我々が入ったのはスタバの一号店ではないと言う。え?だって、マークが茶色じゃん。市場に沿って3ブロック先が目ざす一号店だという。間違えたのはおまえさんで今朝から三人目だと笑われたが、カラフルなマップをくれた。

小さなお店が立ち並ぶ市場通りを歩いて行くと、あったあった、1912年とドアの上に書いた小さなスタバが。


店の前にはアコーディオン弾きやトリオのアメリカ民謡を奏でる大道芸人が入れ代わり立ち代わり演奏していて、賑わっている。


市場通りは、豆腐のような出来たてのチェダー・チーズが売りのハンドメイドのチーズ屋さんとか、スモーク・サーモン専門屋さんとかピロシキ屋さんが並ぶなかなか楽しい通りである。


スタバ一号店の近くに目指すこじんまりとした公園があった。これなら日本人三人組を見つけるのはそう難しくない広さだと安心したら、お腹が減ってきた。こんなもんだ、という機内食しか食べていないから、シアトルらしいものを食べようと、小父さんに貰った観光マップを見ると、海まで降りるとピア56にシーフードの店が並ぶので、そこでランチを取ろうということになった。

(つづく)


(写真*)猫髭のカメラは旧式の廉価版デジカメなので、オーロラをバルブ開放で撮ることが出来ず、オーロラの写真のみ観光に来た旅の人の御厚意に寄る。

註1:柿崎りん(かきざき・りん)
神戸生まれ。米国アラスカ州アンカレッジ在住。「椋」「きっこのハイヒール」「アンカレッジ詩と俳句の会」。
http://weekly-haiku.blogspot.com/2007/09/blog-post_8345.html
http://weekly-haiku.blogspot.com/2007/05/blog-post_13.html

註2:猫髭(ねこひげ)。「きっこのハイヒール」「桜紅葉会」。

註3:作山薫子(さくやま・かおるこ)。「きっこのハイヒール」「大」「桜紅葉会」。

註4:遠藤千鶴羽(えんどう・ちづは)。「草蔵」「大」「桜紅葉会」。句集『コウフクデスカ』(1998)『暁』(2009)

註5:2007年1月鎌倉市登録、超結社俳句同好会「桜紅葉会」の通称。幹事猫髭、句会捌き馬場龍吉はじめ動物を含む俳号が多いため「動物句会」と呼ばれる。

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