2010-04-04

【週俳3月の俳句・川柳を読む】 山田露結 

【週俳3月の俳句・川柳を読む】
連続殺人事件……山田露結
 川柳 「バックストローク」まるごとプロデュース号より~


恥ずかしながら、川柳に関する知識はまったくない。
以前、関悦史さんのブログで紹介されていた「草地豊子集」を読んで「面白い俳句だなあ。」と思って購入し、その後で実はそれが川柳だと気付いたくらい無頓着なのである。だから川柳と俳句の違いは、などというややこしい話は抜きにしてただ純粋にこの「五七五に並べられた言葉」を読んでみようと思う。


◎格子戸の奥  石部 明

湖底より数多の瘤が浮いてくる  石部明

「瘤」というのはたんこぶだったり木の瘤だったり連れ子だったり、つまり「瘤」自体単独で存在し得るものではない。湖底から浮いてきたこの瘤ももちろん「瘤」そのものが浮いて来たわけではないだろう。つまりこれは死体なのではないだろうか。しかもかなりひどく殴られている。連続殺人事件のはじまりである。

蝶番のひらりひらりと黄泉の国

蝶ではなくて「蝶番」。蝶そのものを「蝶番」に見立てているのだとすればここでは金属製の、しかも剃刀のような切れ味の蝶が舞っているのだと読んでみたい。その蝶の翅の薄さから、見る角度によっては一瞬ふっと視界から消えてしまうというレトリック上の錯覚。掲句ではそれを「ひらりひらりと黄泉の国」という表現で捉え、あたかも蝶があの世とこの世を行ったり来たりしているかのように描いている。もちろん「蝶番」があの世とこの世を繋ぎとめているイメージもあるだろう。前の句の死体と関連付けるのであれば、この蝶は湖のまわりを舞っているのかもしれない。

生者死者数の合わないカレー皿

数年前に世間を騒がせた毒入りカレー事件を思い起こす。生者と死者の数が合わない、という矛盾を提示することによって事件の不可解さをあらわしている。二つ目の殺人事件。

死を容れて壊れたままのポリバケツ

「死」と「ポリバケツ」のアンバランス。
虫とか動物の死骸ならポリバケツに収まるが、人間はちょっと無理だろうと思いきや、いやいや「ポリバケツ」の中にあるのはバラバラ死体なのである。ずいぶん雑に放置されている。三つ目の殺人事件。

いじらしく胸をひらいて天秤座

胸をひらいているのは天秤座の女か。均衡を保つことを旨とする天秤、そして常に冷静で理知的であるのが天秤座の女性である。そんな淑女がいじらしく胸をひらいて男に体を許そうとしている。この男女の関係に何やら後ろめたいものを想像してみる。

格子戸の奥男根をぶら下げる

格子戸の奥という古風なシチュエーションが何やら妖しげな雰囲気を作り出している。
格子戸によって男根は切断され、そのことによって男根は実際よりもずいぶん長く見えるという視覚的効果か。あるいは、格子戸の隙間からカメラがぐっとズームアップして入って行き、だらりと垂れたモノを拡大して映しているのか。「ぶら下げる」のだから、勃起はしていない。終ったあとか。モノをぶら下げている男の視線の先には果てて横たわる女の姿も見える。
七句の中で、この句と前の「いじらしく」の二句からは直接「死」を連想しない。七句にストーリーを見出すのであれば、この二句は映画のカットバックの要領で殺人事件に到るまでの経緯を読者に見せているのかもしれない。

死のように孔雀の喉のはしき青

「人間到るところ青山有り」というように青色は死のイメージと結びつきやすいのではなかろうか。孔雀の喉の青色が死のようだという断定は何をあらわそうととしているのだろうか。
連続殺人事件の犯人の死に対するサディスティックな美意識を匂わせて物語は「FIN」。


◎ないないづくし  樋口由紀子 

はっきりと思い出せない猿の足  樋口由紀子
わたくしと安全ピンは無関係

一句目は「猿の足」でなくてもいいだろう、二句目は「安全ピン」でなくてもいいだろう、と思った。では、「猿の足」、「安全ピン」以外に何がしっくり来るだろうと考えてみる。が、何も思いつかない。どういうことだろう。まるで技をキメられたように「猿の足」と「安全ピン」は動かない。
一句目、本当は「はっきりと思い出せないもの」は何でもいいのだろうと思う。そんなものは普段の生活の中にいくらでもある。しかし、ここでは「はっきりと思い出せない」と唐突に言われることによって読者は漠然と「はっきりと思い出せないもの」をはっきりと思い出そうとしはじめる。そして読者がその「はっきりと思い出せないもの」を「はっきりと思い出せない」でいる間に下五で「猿の足」と言い切られてしまう。一本、である。
二句目も同様。読者が、わたくしと安全ピン?何の関係だろう?と思いあぐねているうちにさっと「無関係」という当然の回答を出してくる。マイリマシタ。



川柳作品
石部 明 格子戸の奥 7句 ≫読む
石田柊馬 キャラ  7句 ≫読む
渡辺 隆 ゴテゴテ川柳  7句 ≫読む
樋口由紀子 ないないづくし 7句 ≫読む
小池正博 起動力 7句 ≫読む
広瀬ちえみ 鹿肉を食べた 7句 ≫読む

曾根 毅 神域 10句 ≫読む
山下つばさ 春は沖縄 10句 ≫読む
石嶌 岳 紅 10句 ≫読む
長田美奈子 日の本 10句 ≫読む
小久保佳世子 雛のごとく 10句 ≫読む
山田耕司 長崎屋桐生店地下食品売場吟行記 10句 ≫読む

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