2010-09-19

林田紀音夫全句集拾読133 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
133





野口 裕



雲の流れる夜に硝煙の夜を伴う

流亡に似て落日の余を愛しむ

流されて夕三日月を身に灯す

ひとり流れて河口の葦の曇天見る

流された血の海浪の音加わる

昭和四十七年、未発表句。前の句を取り上げてから、そう言えばこの年には、「流」の字が多いなと感じた。石塔の句以前に、これだけの「流」がある。以後には、

雨に濡れてたったひとりの夜が流れる

流される身に橋の灯も水の色

白い午後の運河流れる何もなく

殖えるネオンに鉄の流した血が滲む

がある。「流」に物の流れではなく、時の流れ 、時代の移り変わりに対する感慨を込めていることは容易に見て取れる。傍観者でありながら、傍観している自分自身に意識が向けられている点が、特徴的である。

これだけの句を書き込みながら、これらを推敲した発表句、句集収録句は皆目見当たらない。

一句を取り出してみたときに「流」が読者に強い印象を残さないことは明らかだが、これだけ集積すると、それでもなお一句を得ようとする作者の意地を感じ、その点に迫力を感じる。

 

鉄骨の空つかのまの朱に溺れる

昭和四十七年、未発表句。鉄骨を透かして、茜空がある。一瞬、心を奪われる。私も鉄骨も朱に溺れているようだ。いや、私は鉄骨に溺れているのだろうか、成長を続ける得体の知れない都会の中で。

「の」で繋ぐ句体は、多様な解釈をもたらす。紀音夫の、外界に対する不安定な反応を象徴するように。

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