2010-09-05

麒麟さんが明日会社に行けないかもな結果発表

麒麟さんが明日会社に行けないかもな結果発表

≫承前

「明日会社に行きたくない…」

というわけで、おのおの選句が終了し、ついに結果を発表することに。実は今回は選を直接清記用紙に書き込んでいってもらったため、既に沈み気味の面持ちの参加者も。ここで感想を訊いてみた。

西村「明日会社に行きたくない。」
このひとことに全員が沸く。西村は昨日からそんなことを思っていたらしい。そのほか、
小川「いわゆる前衛系は私だけなんですが、破調の句もたくさんあっておもしろい」
山口「「ビートルズ」とか、むずかしかった。みんな手練手管でこなしているのがおもしろかった」
福田「(本格的なものではなく変化球の)遊んでる句があって、刺激的」
などの声をいただく。主催者としてはひとまずよろこんで頂けたようで一安心である。

さて、さっそく第1ラウンドから点を開けていこう。題は「傘」。出題者は、野口る理。席題句会はその場のノリ、雰囲気を大事にすることも愉しさの一つだから、こういう出題が出てくるのは、わりとよくあることだ。

今回は選句をそれぞれの題につき並選2つ、逆選1つにしてもらい、更に並選を1点、逆選を-1点に換算して、合計点数も集計することにした。席題8句を60分で作るというシビアな状況に加えて、逆選の比率も高い。つまりひじょうにゲーム性の強い句会であるから、点数がそのまま実力に反映されるわけでもないが、これも一興である。読者の方もぜひ作者を書いていない作品一覧の記事があるから、それを見て選んでほしい。

その第1ラウンドの結果は、飛びぬけて点が集まった句はなく、3点句が3つ。

  傘差してくれよコスモス手折るとき

山口「「コスモス」の選択がベストかどうかはわからないが、雨の中で誰に言うわけでもなく、1人でいるという、そういうロマンチックな感じに惹かれて男が4人採ったんじゃないかな。麒麟さんはそういうの嫌いなんじゃないですか。」
西村「まぁ…甘いかな。」

作者は野口る理。まずは出題者が堅実にポイントを稼ぐ。

  ビニル傘雨滴の光【こう】を秋夜に振る

小川「「秋夜」だからいいのかな。ビニル傘のチープながらも輝いているところと合っていると思う」
福田「「雨滴の光」という言い方が詩的でありつつ、それをビニル傘のチープさに見出しているのがいい。あと、「秋夜に振る」の空間的な把握に広がりが出ている。」

作者は藤田哲史。「傘」という名前は彼による。やはり傘というモチーフも得意な素材だったようだ。

  かなかなや座れば傘を股間に置く

村越「「股間」の言葉のインパクトと、「かなかな」のさびしげな感じとの取り合わせもいい」
野口「言葉の使い方としてもう少し練れそうな感じがする。(気にはなったけど)惜しいところで。」
小川「ぎくしゃくしている音の感じがいいと思った。」
作者は越智友亮。「傘」の2人が点をひとまずいただくスタートになった。

そして栄えある第1ラウンド最低得点は、西村麒麟。-2点。

  この傘をやりたきほどの案山子かな

作者の名乗り上げの声と、その悲しみの顔に一同に笑いが起こる。
西村「ひじょうに心折られていく…(句会だね…)」
山口「いや、でも目についたから逆選な訳で。」
西村「そんな慰めはいらないっ!」

そう、誰の目にもとまらなかったら、かなしく無点句になるのもこの句会。魅力的な作品を作りつつ、いかにそこから逆選をもらわないようにするのが勝者への道。ではあるのだが…そこが何ともむずかしい。

村越「完全に消耗戦ですね。」

第1ラウンドが終わって一同に安心感と緊張感が走る。場合によっては合計得点がマイナスの可能性もあることをみなわかりはじめてきたのである。


●打率より打点で稼ぐ


第2ラウンド「椅子」。出題者は村越敦。

最高得点句は3点句が2つ。

  椅子の脚空に向けたり草雲雀

西村「短い時間で「椅子の脚を空に向けたり」っていうのはよく思いついたな、って思いました。「草雲雀」も取り合わせとして静かでよかった。」
越智「店じまいの風景かな。オープンカフェの感じ。いいと思いました。」

作者は小川楓子。静かな方である。結社ともかく、参加者のなかで最も落ち着いて話してくださった。淡々と、それでいてしっかりと声が伝わる、そういう人である。そしてもう1つの3点句。

  この椅子に敢へての忘れ扇かな

野口「まぁ、いいんじゃないですか…(言葉に詰まる)。ええと、先に若之君お願いします。」
福田「「敢えての」がいいと思います。その「椅子」は「扇」と相応しくないような洋風の椅子であったりするという景色が見えてくる。」
野口「同意です。」
このあたりの乗っかり具合。野口る理その人のお家芸である。

作者は西村麒麟。

西村「こういう感じだよ(これを待ってたんだよ)。これで(また明日)会社に行こうって思うよね!」
ご機嫌の名乗り上げである。これでさっきの借金は返済、合計+1点。一方、越智友亮は

  知恵熱と言えず、頭痛で秋の椅子

で逆選3の集中砲火。さっきの稼ぎが一気に消し飛んだ。題がよかったのかこのラウンドには面白い句が多かった。2点句も2つ。

  白き部屋に白き椅子ある雨月かな

作者は村越敦。

  秋入梅ひねもす椅子の裏見れば

こちらも作者は村越敦。
野口「2つ出してる…。」
西村「そういう技もあるんだね。」
藤田「これでトータル4点取ってる訳ですから。」
村越「これで(最高得点句の)麒麟さん越えですよ。」
西村「ああっ!!」
そうなのである。今回に参加者に課したのは1つの席題につき1句以上。つまり、俳句を幾つも出して多くの点数を回収することもできるのだ。ちょうど打率より打点を狙うようなやり方だ。もちろん沢山出して下手に減点を食らうことも十分ありうるわけだから、そこは個人の裁量次第。村越敦の安定した詠みぶりだからできる芸当ともいえる。こういうところからもこの句会のレベルの高さが伺えようものだ。

他に並選2逆選2の問題句を挙げておこう。

  あなたが言つたんじやないのと夜長の椅子を叱る

作者は山口優夢。

西村「何だ、これは。」
小川「椅子を叱っているような感じがして、不思議。」
西村「ここまで変だと、マイナスがつかなくて、支持者も出るんだね。」
村越「せめぎあいですよね。」

山口優夢がグッジョブの手をつきだす。マイナスにならないあたりの破綻ぶりも狙いすましているのか。君子危うきに遊ぶ、である。


●マッコリと逆選

第3ラウンド。兼題の「酒」は西村麒麟出題。俳諧味あるモチーフを選んだとのこと。最高点句は1つ飛びぬけて5点句。

  マッコリは夜長の酒や大事に酔ふ

実はこの句会がはじまる前に、韓国帰りの村越敦から山口優夢の角川賞受賞祝いにマッコリがプレゼントされていたのだ。その意味でこれはひじょうに空気を掴んだ一句であった。しかしながら、その贈り主である村越敦が逆選。

西村「「大事に酔う」という表現がよかった。」
藤田「優夢さん取ってらっしゃらないですが。」
山口「「大事に酔ふ」で挨拶句に仕立てているというところがくさいんじゃないのかなぁ…」
藤田「では、作者は?」
山口「優夢。…なんで自分に振るかなぁ。わかるじゃん、だいたい。しかも村越なんで逆選取ってんの?」
村越「やっぱり挨拶句に逃げたっていう態勢が許せないですよね。挨拶句を出して手柄を取ろうとするところが(笑)。」
優夢「このやろう(笑)」

とんだ逆選のプレゼントである。けれどもこのラウンドでしっかり山口優夢はポイントを稼ぎ、合計7点で一気に1位におしのぼる。

第4ラウンド。兼題は「言葉」。出題者は越智友亮。「言葉が好きだから」というのが出題の意図。

  鵙猛る言葉が弱く見える日に

野口「ちょっとかっこいいんじゃないですか。」
あいかわらず、ゆるいコメントである。もう少し、評を促す。
野口「結構主観なんですが、勢いがある。」

作者は福田若之。おおっと複数の声が挙がる。ここへ来て最年少参加者が圧倒的な点数を稼ぐ。しかも、自分の持ち味をじゅうぶんに発揮しての5点句。さらにここまで目立った減点なし。この作者、決してあなどれないのだ。現在合計点数7点。

このラウンドでは山口優夢は+1点句に終わり、現在8点の暫定1位。これで福田若之は第2位につけた。

他に注目が集まったのは、

  文字にして言葉恥ずかし水中花

3点句。作者は越智友亮。山口優夢から「らしい」のひとこと。

  ブーケ抱いて言葉はやすらかに終はる

1点句だが、5人から選を受ける問題作。作者はうすうす全員から気づかれていて、山口優夢。

  やすやすと言葉売らるる熱帯夜

作者は村越敦。-1点句。意外にこの作者浮き沈みが激しい。「意外に麒麟さんといい勝負疑惑ですよ」と村越。

  伝へたき言葉を抱へ穴まどひ

作者、西村麒麟。ここで-2点句。折り返し地点まで来て、やや点数の開きがでてきたか、というところ。


●ストレートという魔球

第5ラウンド。題は「的」。出題意図を福田若之に問うと、「ナントカテキっていう若者の言葉の感じを使うのと、普通にマトで詠んでくるのと、どっちなんだろう、というのが見たかった。」とのこと。おもしろい。

そして、出題意図にしてはやや変化球狙いが多かったもよう。その中でストレートを攻めたこの句が最高点の5点句。

  射的の銃は煙を出さず秋の虹

無理のない、それでいて動かしようのない下5である。的確に季語が決まったときの情感は、「ストレートという魔球」というべき印象がある。
村越「いやもう、着地がバシッと決まったな、というのがあります。「秋の虹」の広がりと空気感もバッチリだと思います。完璧です。」
藤田「「完璧」出ました。作者どなたでしょう?」
山口「(しずしずと)角川俳句賞の山口優夢です。」
野口「うぜえええ」
この名乗りには爆笑とともに全員から大顰蹙を買うことになってしまった。
西村「今のは…(記事に入れないといけないよね)」
山口「好感度下がるから。」
西村「好感度なんて狙ってんの。」
というわけでのこの記事への掲載である。

そして5点句がもう1つ。

  野菊的に昼のひかりは仏かな

西村「「野菊的」ってフレーズはだめになりそうなのが、「ひかりは仏」っていうので救われて、「野菊的」もよく見えてきた。」
福田「野菊、ひかり、仏という3つのフレーズは、イメージとして近すぎて、それが受け入れがたかった。」
越智「秋桜子の「冬菊のまとふはおのが光のみ」を踏まえてますよね。」

作者は藤田哲史。


●「迫真の嘘がすき」

第6ラウンドは「鬼」。出題者は山口優夢。鬼灯、鬼やんま、など秋の季語に含めやすいのが出題理由とのこと。

村越「ここからが正念場ですよ。」
藤田「もしかして自身の合計点数数えていたりします?じぶんは捌いているのでちょっと追いつけないのですが。」
西村「かぞえてるよー」

ここまで来ると逆転の可能性も低い。そろそろ多作の馴れ不馴れや、語彙力、手持ちのテクニックの数などが点数になってあらわれそうなところ。

  この電柱登れず鬼になれず芋

小川「「芋」が鬼にも電柱にも登れない、ということなのかしら?」
藤田「おそらく「この樹登らば鬼女となるべし夕紅葉(三橋鷹女)」を踏まえている。」
小川「できない、より「できる」という嘘のほうがいい。そして、嘘なら迫真の嘘がいい。」
西村「これは嘘にしてはちっぽけな…。」
野口「嘘というわけでもないですよね。」
参加者の中で解釈がまとまらない。たしかに電柱に登れないのも鬼になれないのも普通のこと。しかし、そんなことを考える普通でない狂気の情感をたのしめ、というところなのだろうか?
藤田「しょぼい感じが取り合わせの「芋」で助長されているわけですね。作者どなたでしょう。」
村越「村越です」
訊ねてみると「オマージュというか、下敷きにした、だけです。」とのこと。芋、の唐突な飛躍はおもしろい。一見古風な句も見せつつ、こういう句も作れるのが村越だ。最近は「カメレオン俳人」を狙っているとのこと。

以下3点句が2つ。

  鬼灯がひとみの中に殖えゆけり

越智「ベタっちゃベタかもしれませんが、生なましさを感じさせてくれるんちゃうんかなぁって」
作者は山口優夢。

  異国語のせめぎ合ひたる三鬼の忌

これも作者は村越敦。打点王狙いのこの人、このラウンドへ来て、

  愛のなき鬼のあはれや曼珠沙華

と1つの題に3つも出句し、点数を稼ごうとする。この句は0点句だったものの、減点を怖れないところ、なんとも肝が据わっている。

  鬼ごっこのきみを見つける鬼となる

これが最低点句で-3点。作者は越智友亮。唯一並選だった山口優夢さんは「鬼ごっこの鬼ではない「鬼」になっているようで、しかも主人公が見つけられるのか、見つけるのかも曖昧なところがよかった。でもその曖昧さで逆選が入るのは、まぁ(納得)。」


●サラリーマンに勇気を


いよいよあとラウンドが2つである。第7ラウンドの題は「パンダ」。出題者は小川楓子。別の句会で「しろくま」や「ペンギン」など動物の題を出していたらしく、動物つながりで「パンダ」を選んだとのこと。個人的にはもっともむずかしかった。

その中にあって4点をとって最高得点に輝いたのがこの句。

  ばつたきらきらパンダとは仲良しで

小川「私には自然に受け取れました。パンダとばったが仲良しで。檻の中から見ている感じ」
藤田「作者は?」
西村「麒麟!」
全員「おおっ」
西村「会社に行くぞぉー!」
全員「(笑)」
藤田「好感度あがってますよ。」
西村「やっぱりね、サラリーマンに勇気をね。」

自解によると「パンダとキリン(西村麒麟)が仲良し」とのこと。俳号と掛けた動物つながりということなのだ。「そういうと途端にショボい句に…」とボヤく麒麟さん。ともかくもこれで+4点。

  梨に雫ピーターパンダッタラ死ナナイ

1点句。「パンダ」を含めばこういうのも、またよし。作者は藤田哲史。

  思春期のパンダ銀杏がぐちゃぐちゃ

小川「逆選がいちばん入ってしまったけど、これがいちばんよかったかも。「思春期のパンダ」って新しくないですか?混沌としている感じが。」
-1点句ではあるものの、好評も得つつ、ぎんなんの匂いの強烈さんに思わず、逆選の嵐。ここへ来て痛い出費。作者は福田若之。

いよいよ最終ラウンドである。題は「ビートルズ」。出題は藤田哲史。このような題は、いかに名句を作るかより駄作を作らないかが勝負の分かれ目になる。鑑賞を省きつつ、ざっと見ていこう。

  冷麦は夏ひとりの夜のビートルズ

2点句。作者、越智友亮。

  花野風気高い嘘をビートルズ

-2点句。作者は福田若之。

  林檎を齧る俺達にビートルズ

作者は西村麒麟。
村越「これ今日でいちばん許せなかった…」
西村「いいんだよ、これくらいやったって。お祭りなんだから。」
もはやひらきなおりのところもある。-3点。

  ビートルズ我より若し曼珠沙華

2点句。作者は山口優夢。

  モノクロのカンナのようにビートルズ

4点句。作者は小川楓子。

  ビートルズ無花果詰めてタルトなる

6点句。作者は藤田哲史。何の技巧らしさのない句が最高得点になる例を示してしまったが、まぁ、席題としては、そういうもの。どんな素材が来ても下手な句を出さないことも、実力と思っていただければ、ありがたい。


●点数から浮かび上がってくるもの

以上で句会の結果は全て終わったわけだが、句会の総合得点だけ挙げておく。繰り返すと、やはり句会はその日の参加者によることは多いことは、あしからず。

第1位 山口優夢 20点
第2位 藤田哲史 15点
第3位 小川楓子 13点
第4位 越智友亮 5点
第5位 野口る理 4点
第6位 村越 敦 3点
第6位 福田若之 3点
第8位 西村麒麟 1点

第1位は山口優夢。巧みな挨拶句と、破綻しているような句でも減点を極力抑えたことが勝因。角川俳句賞作家の地力というところか。
第2位は藤田哲史。目立った回数は少ないが、勝負所で高得点を獲得して一気に上位に。
第3位、小川楓子。各ラウンドで魅力ある句を重ね、着実に点を重ねていった傾向がある。この人がもっとも作風にアウェイらしさがあったかもしれない。それでこの取得点数の高さを見ていただきたい。
第4位、越智友亮。魅力あるものは多かったが、逆選も多かったか。点数の浮沈が最もはげしかったのもこの人。
第5位、野口る理。第1ラウンドで先制したものの、その後伸び悩む。
第6位、村越敦。1題につき複数出句するパフォーマンスと話術による句会の沸かせ方は秀逸。空気作りの上では、西村麒麟とならんで今回の主役であった。
同着で福田若之。点数に結びつかない句も多いものの、作品の存在感は髄一。
第8位、西村麒麟。第7ラウンド(「パンダ」)では最高点を獲得しつつも、高得点ならず。「作品が目立たないと逆選も入らない」ところでは、魅力十分。次回の活躍をひじょうに期待したいところだ。

どうだっただろうか。単なる得点よりも、どのように取っているのかに、それぞれの作風も反映されようもの。句会結果を合わせて掲載するのでそれも見てほしい。

何より参加者がほんとうに楽しんだこと。現在録音した音声を聴きながらこの記事を書いているのだが、その雰囲気が少しでも伝わればありがたい。

山口「どうですか、今日、主催者側として。」
藤田「いや、もう十分予想を上回る句会になりました。ありがとうございました。」
そしてその「十分予想を上回る」発言に対して出たひとこと。
野口「なめられたもんですな。」

[fin.]

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