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2010-09-05

「傘」とは

「傘」とは

越智友亮と藤田哲史の2人が出す雑誌です。
この2人が組みたい企画しか組みません。
それぞれが企画を発案し、発案者が編集責任を取るかたち。
不定期刊行。
スポンサー、ただいま募集中。

≫ウェブサイト http://haiku.karakasa.com/

vol.1
について編集人から


vol.1の特集は「佐藤文香」です。若手俳人が特集されることが少ないことは俳句では常識に近いのですが、「それってどーなのよ?」と。ゆくゆく大成するかどうかわからない若手作家はプッシュできないものなのか?俳句は老境でこそ輝くものなのか?今回はそのアンチテーゼとして若手の1人にスポットを当てて特集記事を組んでみよう、ということです。

「佐藤文香はもう褒められてるよ」という若手俳人の意見も聴きましたが、そうではない。それは厳密に言うと『海藻標本』が褒められた訳で、その人物についてであれば、何度特集されても問題ない。そうでなければ、はるか昔に芭蕉や蕪村の研究なんて終わっていていいはず。ある人物を一面的に評価することなんてほんとうは不可能のはずで。

そして、これを皮切りに「佐藤文香」以外にも若手俳人の特集をどんどんやっていきたいな、とも思っています。でも、こういうのなんて音楽雑誌じゃ普通のこと。うちらは普通のことを普通にしたいだけなんです。つまりは。(藤田)


vol.2 について編集人から

vol.2では「ライトヴァース」を特集する予定になっています。かつて短歌では、穂村弘を中心としたニューウェーブと呼ばれる人たちが短歌のライトヴァース化を行いました。それを受けて、俳句ではどうだったでしょうか。今のところ、自分はよくわかっていません。そんなわけで、vol.2では、俳句とライトヴァースとの関係性を考えたいと思っております。現在ある程度まで構成を練っておりますが、まあ、お楽しみに。あはは。(越智)

空腹のる理さんは歳時記よりお品書で句会開始

空腹のる理さんは歳時記よりお品書で句会開始


●カサと読まないで

2010年9月2日午後6時半、8名の若手俳人が新宿に集まった。小川楓子、西村麒麟、野口る理、山口優夢、村越敦、福田若之、藤田哲史、そして、越智友亮である。秋も名のみであって、まだまだ暑さもおさまる気配もなく、この日も雲が茜色の頃合であるのに汗ばむほど。さて、今回、この8名に集まってもらったのには、「傘[karakasa]」を創刊することと関係がある。

ここで、「傘」とはなんぞやと思われた方がいるかもしれない。それは、藤田と越智がこの度9月9日に発刊することになった雑誌の名前である。ここで、「傘」を[kasa]と読まないでほしい。[karakasa]ときちんと読んでほしい。なぜ、[karakasa]と読むようになったかは詳しく知らないのだけど(藤田によるネーミング)。vol.1の特集記事は「佐藤文香」。同世代の俳人を意識して読むことに焦点を当てたものだ。今回のvol.0でもそれに関連させて、同世代の俳人による句会を催すことにした。

それが、「傘」句会である。


●参加者紹介

句会の前に、この8名の若手俳人を簡単に紹介していく。そこで彼らに自選5句を提出してもらった。合わせて簡単に紹介文も書く。自分たちが集められるできるかぎりの豪華メンバーに揃ってもらったつもりである。まずは作風のちがいを感じとりつつ、作者の像を思い描いてほしい。

まずは1番年上である小川楓子。彼女は1983年生まれ。もともと短歌を作っていたものの、しだいに短歌の下句の14音が長いと感じ、俳句を作りはじめる。現在「海程」「舞」「青山俳句工場」に所属。年末に刊行予定の50歳以下の俳人のアンソロジー『超新撰21』の公募枠をみごと勝ち取った。この公募枠2名はどちらも20代の俳人が選ばれたことで話題だ。刊行がひじょうに愉しみである。

清明に生れてみどりの踵持つ
ぼろぼろの青嵐はろばろと来ぬ
草むらのきつねきれいによみかへす
ふつさりと腕のべらるる春の昼
どこからの船どこからの蝶の口

続いて同年生まれである西村麒麟。所属結社は「古志」。2009年には、第1回石田波郷新人賞、古志新人賞を受賞した。今まさに波に乗っている俳人である。この間銀座の小料理屋「卯波」で「澤」の榮猿丸さんに絡まれたとのことで、藤田哲史がなんとなく謝るという事態に。

ポケットに全財産や春の旅
たましひの時々鰻欲しけり
桔梗のつぼみは星を吐きさうな
一回も負けぬ気でいる相撲かな
凍鶴のわりにぐらぐら動きよる

山口優夢は、1985 年生まれで、「銀化」に所属している。『新撰21』(邑書林刊)に収録されている俳句甲子園出身の作家のひとり。八月下旬にこの句会のオファーを掛けたあと、今年度の角川俳句賞の受賞したというニュースが飛び込んできた。この句会が受賞決定後初めての句会。かつ、この「週刊俳句」の記事が受賞後初めての作品発表になるとのこと。今回の主役である。

心臓はひかりを知らず雪解川
あぢさゐはすべて残像ではないか
ビルは更地に更地はビルに白日傘
火葬場に絨毯があり窓があり
野遊びのつづきのやうに結婚す

野口る理は、1986年生まれの、無所属。はじめての句会がテレビ収録の句会(「俳句王国」)であるという。現在聖心女子大学院で哲学を専攻。研究分野はプラトン。句会の作句時間に最も余裕を見せていたのがこの人。

初雪やリボン逃げ出すかたちして
うぐひすや博物館の庭広く
汗ばめば東京湾にくびれかな
二点透視図法と戦つてゐる杏かな
栗飯と湯気と吉本新喜劇

村越敦は、1990年生まれ。無所属。第11回俳句甲子園では、「それぞれに花火を待つてゐる呼吸」で個人最優秀賞を受賞。現在、東大俳句会の幹事を務める。本日は大きな旅行鞄を携えて句会に来てくれた。何でも句会が終わったその足で北欧に旅行するとのこと。

温めてパンしわくちやや春の雪
我思ふ故にバナナはあのかたち
夏草やトランペットに暮色あり
雨か雪か分からずコート濡れてゐる
胃の中にうどんの残る枯野かな

福田若之は、1991年生まれの、無所属。今回の句会の最年少である。第1回石田波郷新人賞では、優秀賞を受賞。最近、結社に入ろうか入らないかで悩んでいるらしい。

神無月突けば縮まる奇術の剣
少年は時の破片となり半裸
青い雑踏広告塔が月を吊る
雲は地球の回る速さで去りゆく夏
東京の空もそれなりだよ檸檬

藤田哲史は、1987年生まれで、「澤」に所属。『新撰21』に収録されている俳句甲子園出身の作家のひとり。2009年には、澤新人賞を受賞。

露の玉年譜のはじめ疎なりけり
ねこじやらし鉢に育てて旅心とは
水涸れて彼らはこはいもの知らず
三人が傾きボブスレー曲がる
自動車の暖房はじめ風のみと

越智友亮は、1991年生まれの、無所属。『新撰21』に収録されている俳句甲子園出身の作家のひとり。池田澄子に師事。「自選句のうち、大学生になって作ったのが1句だけというのは情けない…」のコメントをいただく。

今日は晴れトマトおいしいとか言って
挙手つまり猫背ではない秋の空
地球よし蜜柑のへこみ具合よし
冬の金魚家は安全だと思う
春や嗚呼和式便所の上に尻


●逆選ありのスリリングな句会

さて、句会をはじめよう。と言いたいところではあるが、はじめに今回の傘句会のルールについて説明したいと思う。

まず、この句会はごく一般の席題句会である。各自がそれぞれ席題をひとつずつ挙げ、1時間以内にその席題に即して1句以上の俳句を作ってもらった。ちなみに、それぞれの席題を出題者といっしょにあげてみよう。

「傘」「椅子」「酒」「言葉」「的」「鬼」「パンダ」「ビートルズ」である。

今回の出席者が8名であったので、合計8句以上を提出することに。

制限時間は1時間であるが、全員さっそく本気のモードである。おしゃべりもせずみな黙々と俳句を作っている。中には昨日ねむれなかった人もいたそうで、常日頃の顔馴染みとする句会とは全く異質の空気、緊張感を感じていたのは誰しもそうだっただろう。

その中にあって一人空腹を主張しつつ、歳時記ではなく食べ物のメニューを睨んでいるのが野口る理。また、進行役の藤田哲史は内容説明であったりタイムカウントに気を遣ったりで少し集中しきれないところがある。それは越智友亮も同じだろう。

と、またたくまに1時間が過ぎ、タイムアップ。おのおのにため息がもれる。決して1時間という時間は長くない。その間に名句ができたら申し分ないのだが、その可能性は低い。どちらかといえば、いかに駄作を作らないかというところに気を遣うものだ。しかし、ひとまずは作句の緊張感からは参加者は解放されたようである。

題別に短冊を集め、清記用紙に改めて全員の作品を書きうつす。

ここで選句方法なのだが、これは各兼題につき、並選2句と逆選1句することにした。逆選の基準は各々違ってくると思うが、選としてはとれないが、注目を集めた句という位置づけを与えることができるであろう。また、並選を1点、逆選をマイナス1点として点数換算し、その合計点が高いもの、選の人数が多いものを中心に選評の対象とした。これはかつて小林恭二の行った句会が収録されている『実用 青春俳句講座』(ちくま文庫)を参考にしたものであり、ゲーム感覚に句会を楽しむことに重点を置いたものである。

いよいよ選句がはじまると、「逆選がむずかしい」という声がこぼれる。村越敦は、ずっと微笑を浮かべながら選している。このスリルの中にあってずいぶん愉しんでいるようだ。先ほどメニューと睨めっこしていた野口は、逆選に手間取り精記用紙をため込んでいるもよう。山口優夢は、ほとんど言葉を口にせず作業をこなす。貫禄がある。清記が済んでいくうち、おのおのの出来も自然とわかってくる。しかし、よくあることだが自分の作品の点数のほうは見当がつきにくい。「自分の俳句がいちばん可愛いんだ」とは西村麒麟の言葉。至言である。

さて、その結果はいかに。

(つづく)
麒麟さんが明日会社に行けないかもな結果発表

麒麟さんが明日会社に行けないかもな結果発表

麒麟さんが明日会社に行けないかもな結果発表

≫承前

「明日会社に行きたくない…」

というわけで、おのおの選句が終了し、ついに結果を発表することに。実は今回は選を直接清記用紙に書き込んでいってもらったため、既に沈み気味の面持ちの参加者も。ここで感想を訊いてみた。

西村「明日会社に行きたくない。」
このひとことに全員が沸く。西村は昨日からそんなことを思っていたらしい。そのほか、
小川「いわゆる前衛系は私だけなんですが、破調の句もたくさんあっておもしろい」
山口「「ビートルズ」とか、むずかしかった。みんな手練手管でこなしているのがおもしろかった」
福田「(本格的なものではなく変化球の)遊んでる句があって、刺激的」
などの声をいただく。主催者としてはひとまずよろこんで頂けたようで一安心である。

さて、さっそく第1ラウンドから点を開けていこう。題は「傘」。出題者は、野口る理。席題句会はその場のノリ、雰囲気を大事にすることも愉しさの一つだから、こういう出題が出てくるのは、わりとよくあることだ。

今回は選句をそれぞれの題につき並選2つ、逆選1つにしてもらい、更に並選を1点、逆選を-1点に換算して、合計点数も集計することにした。席題8句を60分で作るというシビアな状況に加えて、逆選の比率も高い。つまりひじょうにゲーム性の強い句会であるから、点数がそのまま実力に反映されるわけでもないが、これも一興である。読者の方もぜひ作者を書いていない作品一覧の記事があるから、それを見て選んでほしい。

その第1ラウンドの結果は、飛びぬけて点が集まった句はなく、3点句が3つ。

  傘差してくれよコスモス手折るとき

山口「「コスモス」の選択がベストかどうかはわからないが、雨の中で誰に言うわけでもなく、1人でいるという、そういうロマンチックな感じに惹かれて男が4人採ったんじゃないかな。麒麟さんはそういうの嫌いなんじゃないですか。」
西村「まぁ…甘いかな。」

作者は野口る理。まずは出題者が堅実にポイントを稼ぐ。

  ビニル傘雨滴の光【こう】を秋夜に振る

小川「「秋夜」だからいいのかな。ビニル傘のチープながらも輝いているところと合っていると思う」
福田「「雨滴の光」という言い方が詩的でありつつ、それをビニル傘のチープさに見出しているのがいい。あと、「秋夜に振る」の空間的な把握に広がりが出ている。」

作者は藤田哲史。「傘」という名前は彼による。やはり傘というモチーフも得意な素材だったようだ。

  かなかなや座れば傘を股間に置く

村越「「股間」の言葉のインパクトと、「かなかな」のさびしげな感じとの取り合わせもいい」
野口「言葉の使い方としてもう少し練れそうな感じがする。(気にはなったけど)惜しいところで。」
小川「ぎくしゃくしている音の感じがいいと思った。」
作者は越智友亮。「傘」の2人が点をひとまずいただくスタートになった。

そして栄えある第1ラウンド最低得点は、西村麒麟。-2点。

  この傘をやりたきほどの案山子かな

作者の名乗り上げの声と、その悲しみの顔に一同に笑いが起こる。
西村「ひじょうに心折られていく…(句会だね…)」
山口「いや、でも目についたから逆選な訳で。」
西村「そんな慰めはいらないっ!」

そう、誰の目にもとまらなかったら、かなしく無点句になるのもこの句会。魅力的な作品を作りつつ、いかにそこから逆選をもらわないようにするのが勝者への道。ではあるのだが…そこが何ともむずかしい。

村越「完全に消耗戦ですね。」

第1ラウンドが終わって一同に安心感と緊張感が走る。場合によっては合計得点がマイナスの可能性もあることをみなわかりはじめてきたのである。


●打率より打点で稼ぐ


第2ラウンド「椅子」。出題者は村越敦。

最高得点句は3点句が2つ。

  椅子の脚空に向けたり草雲雀

西村「短い時間で「椅子の脚を空に向けたり」っていうのはよく思いついたな、って思いました。「草雲雀」も取り合わせとして静かでよかった。」
越智「店じまいの風景かな。オープンカフェの感じ。いいと思いました。」

作者は小川楓子。静かな方である。結社ともかく、参加者のなかで最も落ち着いて話してくださった。淡々と、それでいてしっかりと声が伝わる、そういう人である。そしてもう1つの3点句。

  この椅子に敢へての忘れ扇かな

野口「まぁ、いいんじゃないですか…(言葉に詰まる)。ええと、先に若之君お願いします。」
福田「「敢えての」がいいと思います。その「椅子」は「扇」と相応しくないような洋風の椅子であったりするという景色が見えてくる。」
野口「同意です。」
このあたりの乗っかり具合。野口る理その人のお家芸である。

作者は西村麒麟。

西村「こういう感じだよ(これを待ってたんだよ)。これで(また明日)会社に行こうって思うよね!」
ご機嫌の名乗り上げである。これでさっきの借金は返済、合計+1点。一方、越智友亮は

  知恵熱と言えず、頭痛で秋の椅子

で逆選3の集中砲火。さっきの稼ぎが一気に消し飛んだ。題がよかったのかこのラウンドには面白い句が多かった。2点句も2つ。

  白き部屋に白き椅子ある雨月かな

作者は村越敦。

  秋入梅ひねもす椅子の裏見れば

こちらも作者は村越敦。
野口「2つ出してる…。」
西村「そういう技もあるんだね。」
藤田「これでトータル4点取ってる訳ですから。」
村越「これで(最高得点句の)麒麟さん越えですよ。」
西村「ああっ!!」
そうなのである。今回に参加者に課したのは1つの席題につき1句以上。つまり、俳句を幾つも出して多くの点数を回収することもできるのだ。ちょうど打率より打点を狙うようなやり方だ。もちろん沢山出して下手に減点を食らうことも十分ありうるわけだから、そこは個人の裁量次第。村越敦の安定した詠みぶりだからできる芸当ともいえる。こういうところからもこの句会のレベルの高さが伺えようものだ。

他に並選2逆選2の問題句を挙げておこう。

  あなたが言つたんじやないのと夜長の椅子を叱る

作者は山口優夢。

西村「何だ、これは。」
小川「椅子を叱っているような感じがして、不思議。」
西村「ここまで変だと、マイナスがつかなくて、支持者も出るんだね。」
村越「せめぎあいですよね。」

山口優夢がグッジョブの手をつきだす。マイナスにならないあたりの破綻ぶりも狙いすましているのか。君子危うきに遊ぶ、である。


●マッコリと逆選

第3ラウンド。兼題の「酒」は西村麒麟出題。俳諧味あるモチーフを選んだとのこと。最高点句は1つ飛びぬけて5点句。

  マッコリは夜長の酒や大事に酔ふ

実はこの句会がはじまる前に、韓国帰りの村越敦から山口優夢の角川賞受賞祝いにマッコリがプレゼントされていたのだ。その意味でこれはひじょうに空気を掴んだ一句であった。しかしながら、その贈り主である村越敦が逆選。

西村「「大事に酔う」という表現がよかった。」
藤田「優夢さん取ってらっしゃらないですが。」
山口「「大事に酔ふ」で挨拶句に仕立てているというところがくさいんじゃないのかなぁ…」
藤田「では、作者は?」
山口「優夢。…なんで自分に振るかなぁ。わかるじゃん、だいたい。しかも村越なんで逆選取ってんの?」
村越「やっぱり挨拶句に逃げたっていう態勢が許せないですよね。挨拶句を出して手柄を取ろうとするところが(笑)。」
優夢「このやろう(笑)」

とんだ逆選のプレゼントである。けれどもこのラウンドでしっかり山口優夢はポイントを稼ぎ、合計7点で一気に1位におしのぼる。

第4ラウンド。兼題は「言葉」。出題者は越智友亮。「言葉が好きだから」というのが出題の意図。

  鵙猛る言葉が弱く見える日に

野口「ちょっとかっこいいんじゃないですか。」
あいかわらず、ゆるいコメントである。もう少し、評を促す。
野口「結構主観なんですが、勢いがある。」

作者は福田若之。おおっと複数の声が挙がる。ここへ来て最年少参加者が圧倒的な点数を稼ぐ。しかも、自分の持ち味をじゅうぶんに発揮しての5点句。さらにここまで目立った減点なし。この作者、決してあなどれないのだ。現在合計点数7点。

このラウンドでは山口優夢は+1点句に終わり、現在8点の暫定1位。これで福田若之は第2位につけた。

他に注目が集まったのは、

  文字にして言葉恥ずかし水中花

3点句。作者は越智友亮。山口優夢から「らしい」のひとこと。

  ブーケ抱いて言葉はやすらかに終はる

1点句だが、5人から選を受ける問題作。作者はうすうす全員から気づかれていて、山口優夢。

  やすやすと言葉売らるる熱帯夜

作者は村越敦。-1点句。意外にこの作者浮き沈みが激しい。「意外に麒麟さんといい勝負疑惑ですよ」と村越。

  伝へたき言葉を抱へ穴まどひ

作者、西村麒麟。ここで-2点句。折り返し地点まで来て、やや点数の開きがでてきたか、というところ。


●ストレートという魔球

第5ラウンド。題は「的」。出題意図を福田若之に問うと、「ナントカテキっていう若者の言葉の感じを使うのと、普通にマトで詠んでくるのと、どっちなんだろう、というのが見たかった。」とのこと。おもしろい。

そして、出題意図にしてはやや変化球狙いが多かったもよう。その中でストレートを攻めたこの句が最高点の5点句。

  射的の銃は煙を出さず秋の虹

無理のない、それでいて動かしようのない下5である。的確に季語が決まったときの情感は、「ストレートという魔球」というべき印象がある。
村越「いやもう、着地がバシッと決まったな、というのがあります。「秋の虹」の広がりと空気感もバッチリだと思います。完璧です。」
藤田「「完璧」出ました。作者どなたでしょう?」
山口「(しずしずと)角川俳句賞の山口優夢です。」
野口「うぜえええ」
この名乗りには爆笑とともに全員から大顰蹙を買うことになってしまった。
西村「今のは…(記事に入れないといけないよね)」
山口「好感度下がるから。」
西村「好感度なんて狙ってんの。」
というわけでのこの記事への掲載である。

そして5点句がもう1つ。

  野菊的に昼のひかりは仏かな

西村「「野菊的」ってフレーズはだめになりそうなのが、「ひかりは仏」っていうので救われて、「野菊的」もよく見えてきた。」
福田「野菊、ひかり、仏という3つのフレーズは、イメージとして近すぎて、それが受け入れがたかった。」
越智「秋桜子の「冬菊のまとふはおのが光のみ」を踏まえてますよね。」

作者は藤田哲史。


●「迫真の嘘がすき」

第6ラウンドは「鬼」。出題者は山口優夢。鬼灯、鬼やんま、など秋の季語に含めやすいのが出題理由とのこと。

村越「ここからが正念場ですよ。」
藤田「もしかして自身の合計点数数えていたりします?じぶんは捌いているのでちょっと追いつけないのですが。」
西村「かぞえてるよー」

ここまで来ると逆転の可能性も低い。そろそろ多作の馴れ不馴れや、語彙力、手持ちのテクニックの数などが点数になってあらわれそうなところ。

  この電柱登れず鬼になれず芋

小川「「芋」が鬼にも電柱にも登れない、ということなのかしら?」
藤田「おそらく「この樹登らば鬼女となるべし夕紅葉(三橋鷹女)」を踏まえている。」
小川「できない、より「できる」という嘘のほうがいい。そして、嘘なら迫真の嘘がいい。」
西村「これは嘘にしてはちっぽけな…。」
野口「嘘というわけでもないですよね。」
参加者の中で解釈がまとまらない。たしかに電柱に登れないのも鬼になれないのも普通のこと。しかし、そんなことを考える普通でない狂気の情感をたのしめ、というところなのだろうか?
藤田「しょぼい感じが取り合わせの「芋」で助長されているわけですね。作者どなたでしょう。」
村越「村越です」
訊ねてみると「オマージュというか、下敷きにした、だけです。」とのこと。芋、の唐突な飛躍はおもしろい。一見古風な句も見せつつ、こういう句も作れるのが村越だ。最近は「カメレオン俳人」を狙っているとのこと。

以下3点句が2つ。

  鬼灯がひとみの中に殖えゆけり

越智「ベタっちゃベタかもしれませんが、生なましさを感じさせてくれるんちゃうんかなぁって」
作者は山口優夢。

  異国語のせめぎ合ひたる三鬼の忌

これも作者は村越敦。打点王狙いのこの人、このラウンドへ来て、

  愛のなき鬼のあはれや曼珠沙華

と1つの題に3つも出句し、点数を稼ごうとする。この句は0点句だったものの、減点を怖れないところ、なんとも肝が据わっている。

  鬼ごっこのきみを見つける鬼となる

これが最低点句で-3点。作者は越智友亮。唯一並選だった山口優夢さんは「鬼ごっこの鬼ではない「鬼」になっているようで、しかも主人公が見つけられるのか、見つけるのかも曖昧なところがよかった。でもその曖昧さで逆選が入るのは、まぁ(納得)。」


●サラリーマンに勇気を


いよいよあとラウンドが2つである。第7ラウンドの題は「パンダ」。出題者は小川楓子。別の句会で「しろくま」や「ペンギン」など動物の題を出していたらしく、動物つながりで「パンダ」を選んだとのこと。個人的にはもっともむずかしかった。

その中にあって4点をとって最高得点に輝いたのがこの句。

  ばつたきらきらパンダとは仲良しで

小川「私には自然に受け取れました。パンダとばったが仲良しで。檻の中から見ている感じ」
藤田「作者は?」
西村「麒麟!」
全員「おおっ」
西村「会社に行くぞぉー!」
全員「(笑)」
藤田「好感度あがってますよ。」
西村「やっぱりね、サラリーマンに勇気をね。」

自解によると「パンダとキリン(西村麒麟)が仲良し」とのこと。俳号と掛けた動物つながりということなのだ。「そういうと途端にショボい句に…」とボヤく麒麟さん。ともかくもこれで+4点。

  梨に雫ピーターパンダッタラ死ナナイ

1点句。「パンダ」を含めばこういうのも、またよし。作者は藤田哲史。

  思春期のパンダ銀杏がぐちゃぐちゃ

小川「逆選がいちばん入ってしまったけど、これがいちばんよかったかも。「思春期のパンダ」って新しくないですか?混沌としている感じが。」
-1点句ではあるものの、好評も得つつ、ぎんなんの匂いの強烈さんに思わず、逆選の嵐。ここへ来て痛い出費。作者は福田若之。

いよいよ最終ラウンドである。題は「ビートルズ」。出題は藤田哲史。このような題は、いかに名句を作るかより駄作を作らないかが勝負の分かれ目になる。鑑賞を省きつつ、ざっと見ていこう。

  冷麦は夏ひとりの夜のビートルズ

2点句。作者、越智友亮。

  花野風気高い嘘をビートルズ

-2点句。作者は福田若之。

  林檎を齧る俺達にビートルズ

作者は西村麒麟。
村越「これ今日でいちばん許せなかった…」
西村「いいんだよ、これくらいやったって。お祭りなんだから。」
もはやひらきなおりのところもある。-3点。

  ビートルズ我より若し曼珠沙華

2点句。作者は山口優夢。

  モノクロのカンナのようにビートルズ

4点句。作者は小川楓子。

  ビートルズ無花果詰めてタルトなる

6点句。作者は藤田哲史。何の技巧らしさのない句が最高得点になる例を示してしまったが、まぁ、席題としては、そういうもの。どんな素材が来ても下手な句を出さないことも、実力と思っていただければ、ありがたい。


●点数から浮かび上がってくるもの

以上で句会の結果は全て終わったわけだが、句会の総合得点だけ挙げておく。繰り返すと、やはり句会はその日の参加者によることは多いことは、あしからず。

第1位 山口優夢 20点
第2位 藤田哲史 15点
第3位 小川楓子 13点
第4位 越智友亮 5点
第5位 野口る理 4点
第6位 村越 敦 3点
第6位 福田若之 3点
第8位 西村麒麟 1点

第1位は山口優夢。巧みな挨拶句と、破綻しているような句でも減点を極力抑えたことが勝因。角川俳句賞作家の地力というところか。
第2位は藤田哲史。目立った回数は少ないが、勝負所で高得点を獲得して一気に上位に。
第3位、小川楓子。各ラウンドで魅力ある句を重ね、着実に点を重ねていった傾向がある。この人がもっとも作風にアウェイらしさがあったかもしれない。それでこの取得点数の高さを見ていただきたい。
第4位、越智友亮。魅力あるものは多かったが、逆選も多かったか。点数の浮沈が最もはげしかったのもこの人。
第5位、野口る理。第1ラウンドで先制したものの、その後伸び悩む。
第6位、村越敦。1題につき複数出句するパフォーマンスと話術による句会の沸かせ方は秀逸。空気作りの上では、西村麒麟とならんで今回の主役であった。
同着で福田若之。点数に結びつかない句も多いものの、作品の存在感は髄一。
第8位、西村麒麟。第7ラウンド(「パンダ」)では最高点を獲得しつつも、高得点ならず。「作品が目立たないと逆選も入らない」ところでは、魅力十分。次回の活躍をひじょうに期待したいところだ。

どうだっただろうか。単なる得点よりも、どのように取っているのかに、それぞれの作風も反映されようもの。句会結果を合わせて掲載するのでそれも見てほしい。

何より参加者がほんとうに楽しんだこと。現在録音した音声を聴きながらこの記事を書いているのだが、その雰囲気が少しでも伝わればありがたい。

山口「どうですか、今日、主催者側として。」
藤田「いや、もう十分予想を上回る句会になりました。ありがとうございました。」
そしてその「十分予想を上回る」発言に対して出たひとこと。
野口「なめられたもんですな。」

[fin.]

句会結果

句会結果

作品  作者名(得点:+が並選-が逆選)
作者名はファーストネーム、選は名前の1文字目で表記。
野口る理(る理)、村越敦(敦)、西村麒麟(麒麟)、越智友亮(友亮)、福田若之(若之)、山口優夢(優夢)、小川楓子(楓子)、藤田哲史(哲史)

「傘」
傘に水滴そのとき鵙の撃たれけり   敦(-1:-楓)
それぞれが傘さしてゆく真葛原   優夢(+2:+麒+る)
落書きの大きな傘よ文化の日   若之(-1:+麒-友-哲)
傘差してくれよコスモス手折るとき   る理(+3:+若+哲+敦+優-麒)
ビニル傘雨滴の光【こう】を秋夜に振る   哲史(+3:+若+友+楓)
この傘をやりたきほどの案山子かな   麒麟(-2:-敦-優)
かなかなや座れば傘を股間に置く   友亮(+3:+哲+敦+優+楓-る)
秋空を毀しつつゆく傘の骨   楓子(+1:+越+る-若)

「椅子」
椅子の脚空に向けたり草雲雀   楓子(+3:+麒+る+友+若-優)
子規庵に鶏頭無数椅子がない   若之(+1:+敦+友-麒)
白き部屋に白き椅子ある雨月かな   敦(+2:+麒+優)
揺り椅子を壊して落花生と捨つ   る理(0:+敦-哲)
知恵熱と言えず、頭痛で秋の椅子   友亮(-3:-敦-る-楓)
あなたが言つたんじやないのと夜長の椅子を叱る   優夢(0:+哲+楓-友-若)
この椅子に敢へての忘れ扇かな   麒麟(+3:+る+哲+若)
秋入梅ひねもす椅子の裏見れば   敦(+2:+楓+優)
一刻は椅子に■■(ばった)をとりつけし   哲史(0:)

「酒」
猿酒の弱く震へる眠りかな   る理(+1:+優)
麦酒の泡が集まって白考える   友亮(0:+若-楓)
マッコリは夜長の酒や大事に酔ふ   優夢(+4:+麒+る+友+若+哲-敦)
橋姫の長き夜終はる酒匂川   楓子(0:)
十余の言葉が乱れ酒場の夜は長い   若之(+2:+麒+楓+優-哲)
濁り酒にハングル爽やか読めずとも   優夢(+1:+友+越+哲-る-麒)
昼酒も辞さず我らの秋遍路   麒麟(0:+る+敦-友-優)
葛の葉としたしく酒呑童子かな   哲史(0:+楓-若)

「言葉」
やすやすと言葉売らるる熱帯夜   敦(-1:+る-麒-友)
伝へたき言葉を抱へ穴まどひ   麒麟(-2:+若-友-優-敦)
再訪の言葉を鬼灯色と定め   哲史(0:)
鵙猛る言葉が弱く見える日に   若之(+5:+友+優+哲+楓+る)
ありつたけ言葉集へどまだ花野   る理(0:)
ことのはを茂らせてゆく天の川   楓子(+2:+哲+麒)
ブーケ抱いて言葉はやすらかに終はる   優夢(+1:+友+敦+楓-若-哲)
文字にして言葉恥ずかし水中花   友亮(+3:+優+若+村+麒-る)

「的」
パセリ的に生きてるわたし昼の雨   友亮(+1:+若)
野菊的に昼のひかりは仏かな   哲史(+5:+優+敦+麒+る+楓+友-若)
ニーチェ的な人に新酒を注がれても   敦(-2:-麒-優)
射的の銃は煙を出さず秋の虹   優夢(+5:+若+敦+哲+麒+る)
白帝死す的から的へ放たれて   楓子(+1:+優)
秋澄むというウーロン茶的感覚   若之(-1:+楓+友-敦-哲-る)
秋晴や欲しきものなき射的小屋   る理(-1:+哲-楓-友)
戦へる相撲を貴族的に見つ   麒麟(0:)

「鬼」
山深く鬼のかなしみ風の盆   若之(+1:+楓+敦-る)
この電柱登れず鬼になれず芋   敦(+3:+友+哲+優+る-楓)
鬼灯を回して増える予感かな   る理(+1:+哲)
忘却や鬼灯の実の枯れて網   哲史(0:)
鬼ごっこのきみを見つける鬼となる   友亮(-3:+優-麒-哲-若-敦)
ほほえみて真白き鬼の秋袷   楓子(+1:+若)
異国語のせめぎ合ひたる三鬼の忌   敦(+1:+麒+る-優)
虫の宿心の鬼を冷ましつつ   麒麟(+1:+楓)
愛のなき鬼のあはれや曼珠沙華   敦(0:+若-友)
鬼灯がひとみの中に殖えゆけり   優夢(+3:+麒+友+敦)

「パンダ」
ブーケいただきパンダのやうにうれしくなる   優夢(+2:+若+麒+る-哲)
パンダより縞馬硬き夜長かな   る理(0:+敦+優-麒-楓)
愛されてパンダの心地秋の夕   友亮(+2:+優+敦)
こつち見てパンダ初秋の目つきして   敦(-1:-若)
ばつたきらきらパンダとは仲良しで   麒麟(+4:+友+る+哲+楓)
笹の露こぼせりパンダ眠るほど   楓子(+1:+麒+哲-友)
梨に雫ピーターパンダッタラ死ナナイ   哲史(+1:+友+若-優)
思春期のパンダ銀杏がぐちゃぐちゃ   若之(-1:+楓-る-若)

「ビートルズ」
モノクロのカンナのようにビートルズ   楓子(+4:+麒+る+若+敦)
花野風気高い嘘をビートルズ   若之(-3:-る-楓-優)
新涼の指なめらかにビートルズ   る理(0:+友-若)
ビートルズ我より若し曼珠沙華   優夢(+2:+哲+楓)
冷麦は夏ひとりの夜のビートルズ   友亮(+2:+哲+若)
林檎を齧る俺達にビートルズ   麒麟(-3:-哲-友-敦)
どぶろくやビートルズめく父の唄   敦(0:+優-麒)
ビートルズ無花果詰めてタルトなる   哲史(+6:+麒+る+楓+友+優+敦)

席題出句

席題出句

兼題およびその出題者
「傘」 (る理)
「椅子」 (敦)
「酒」 (麒麟)
「言葉」 (友亮)
「的」 (若之)
「鬼」 (優夢)
「パンダ」 (楓子)
「ビートルズ」 (哲史)


「傘」
傘に水滴そのとき鵙の撃たれけり
それぞれが傘さしてゆく真葛原
落書きの大きな傘よ文化の日
傘差してくれよコスモス手折るとき
ビニル傘雨滴の光【こう】を秋夜に振る
この傘をやりたきほどの案山子かな
かなかなや座れば傘を股間に置く
秋空を毀しつつゆく傘の骨

「椅子」
椅子の脚空に向けたり草雲雀
子規庵に鶏頭無数椅子がない
白き部屋に白き椅子ある雨月かな
揺り椅子を壊して落花生と捨つ
知恵熱と言えず、頭痛で秋の椅子
あなたが言つたんじやないのと夜長の椅子を叱る
この椅子に敢へての忘れ扇かな
秋入梅ひねもす椅子の裏見れば
一刻は椅子に■■(ばった)をとりつけし

「酒」
猿酒の弱く震へる眠りかな
麦酒の泡が集まって白考える
マッコリは夜長の酒や大事に酔ふ
橋姫の長き夜終はる酒匂川
十余の言葉が乱れ酒場の夜は長い
濁り酒にハングル爽やか読めずとも
昼酒も辞さず我らの秋遍路
葛の葉としたしく酒呑童子かな

「言葉」
やすやすと言葉売らるる熱帯夜
伝へたき言葉を抱へ穴まどひ
再訪の言葉を鬼灯色と定め
鵙猛る言葉が弱く見える日に
ありつたけ言葉集へどまだ花野
ことのはを茂らせてゆく天の川
ブーケ抱いて言葉はやすらかに終はる
文字にして言葉恥ずかし水中花

「的」
パセリ的に生きてるわたし昼の雨
野菊的に昼のひかりは仏かな
ニーチェ的な人に新酒を注がれても
射的の銃は煙を出さず秋の虹
白帝死す的から的へ放たれて
秋澄むというウーロン茶的感覚
秋晴や欲しきものなき射的小屋
戦へる相撲を貴族的に見つ

「鬼」
山深く鬼のかなしみ風の盆
この電柱登れず鬼になれず芋
鬼灯を回して増える予感かな
忘却や鬼灯の実の枯れて網
鬼ごっこのきみを見つける鬼となる
ほほえみて真白き鬼の秋袷
異国語のせめぎ合ひたる三鬼の忌
虫の宿心の鬼を冷ましつつ
愛のなき鬼のあはれや曼珠沙華
鬼灯がひとみの中に殖えゆけり

「パンダ」
ブーケいただきパンダのやうにうれしくなる
パンダより縞馬硬き夜長かな
愛されてパンダの心地秋の夕
こつち見てパンダ初秋の目つきして
ばつたきらきらパンダとは仲良しで
笹の露こぼせりパンダ眠るほど
梨に雫ピーターパンダッタラ死ナナイ
思春期のパンダ銀杏がぐちゃぐちゃ

「ビートルズ」
モノクロのカンナのようにビートルズ
花野風気高い嘘をビートルズ
新涼の指なめらかにビートルズ
ビートルズ我より若し曼珠沙華
冷麦は夏ひとりの夜のビートルズ
林檎を齧る俺達にビートルズ
どぶろくやビートルズめく父の唄
ビートルズ無花果詰めてタルトなる

【対談】うちらが今見ているもの 越智友亮×藤田哲史

【対談】
うちらが今見ているもの

越智友亮×藤田哲史


●俳句におけるホームグラウンド

F : 今回は対談ということなんですけど「傘」をつくる理由を直接だらだらしゃべるよりは、現在の学生俳人がなぜ結社に入らないのか、とか、そういう周辺環境についてのことからしゃべっていきたいな、と思っています。
O : 了解です。しかし、藤田さんは「澤」に入っておられますよね。
F : でも、私はマイナーな方でしょう?
O : いや、優夢さんも入られているわけじゃないですか。
F : でもそれ以外…。
O : 確かにそうですね。
F : 特に『新撰21』の20代。しかも「俳句甲子園組」に的を絞ると、どうですか。
O : いいですよ。
F : その中に含まれるのは、神野紗希さん、谷雄介さん、佐藤文香さん、山口優夢さん。あと私たち2人。
O : そうなりますね。
F : 1/3が結社所属というのは、やはり少ない傾向としていいですよね。たとえば、あなたはもともと結社に投句していた経験もあるわけでしょうけど。なぜ結社から離れることになったのか?
O : 僕ですか。じぶんが作りたい俳句と結社でとられる俳句とが、違っていたのが原因です。あと、池田澄子に惚れてしまったから。
F : もともと、結社の先生の選ぶものがじぶんの選んで欲しいのとはちがう、のは、かならず起きることかもしれません。それを修行や、研鑽のための1ステップとは思わなかった?
O : うーん、主宰が好きで結社に入ったわけじゃなくて、句会していた仲間が入ってたから入った、という感じだし。
F : そのころの句会していた仲間というのは、どういうつながりだったんですか。
O : たまたま先輩が行った吹田東高校の句会に着いて行った際に、その指導者的な先生に誘われて…。なんか、思いっきりややこしいです。ただ「結社で修行」という概念もわかりますが、その時は、「自分が作りたいものを作る」というのをどうしても押しとおしたかった。
F : 越智は甲南高校出身で、しかも、そのころはまだ中学生だった。甲南高校は中高一貫校だったよね?甲南高校で句会はなかったの?
O : なかったです。僕がひとり、塩見先生(「船団」所属)や、山西先生(「田鶴」所属)、和田先生に見せていた感じ。だから、句会にいけることが素直にうれしかった。
F : そっか。しかし、甲南高校にはいろんな先生がいるのですね。幅広い。
O : そう。高1の時には、山西先生の紹介で、稲畑汀子さんが指導されている野分会に参加させていただいたりして、貴重な体験をすることができました。汀子さんはもともと甲南で先生をされていたんですね。廣太郎さんはOBでもありますし。その一方、塩見先生にもいろんな場所に連れて行ってもらいました。「船団」関係の句会やイベントを中心にですが。そこで澄子さんに会えたわけです。まさしく運命、みたいな(笑)。まあ、そんな自由な環境の中で、俳句をしてました。
F : ところで、そのころ、どういう句会仲間がいたとか、教えてくれませんか。
O : 中山奈々さんや、塩谷鉱世さんですかね。彼女たちにかなり影響を受けました。
F : 例えば、どういった影響を?
O : やっぱ口語調や句またがりといった技術ですかね。彼女たちのまねをしまくりまして、一時期険悪な関係になりましたから(笑)。
F : それは(笑)。でも、そういう環境こそ越智友亮の俳句のルーツでもあったわけだよね。そういえば、彼女達は自分と同い年くらいだから、越智よりは少し年上になってくるんやね。
O : そうですね。それに、もう俳句をやめちゃった同じ年の子たちもいました。
F : 塩谷さんは俳句をやめたと聞きました。今続けているのは…?
O : 中山奈々さん、だけかな。あと、吹田東つながりでは羽田大祐さんも続けているはず。
F : 2人というのは、さみしいすね。その2人は、いま2人とも関西にいるんですか?
O : はい、いますね。
F : で、2人は結社に入っている?
O : 2人とも、今年角川俳句賞の受賞が決まった望月周さんが所属されている「百鳥」に入ってますね。
F : 関西では結社に入っていないと続けられない印象があります。自分の高校の同級生も神戸大学に進学したけど、俳句と疎遠になってしまったようだし。一方で東京圏の俳句甲子園組は、結社に所属せずに俳句を続けている人は多いようです。まず学生の句会が豊富というのがあるでしょう。東京大学、早稲田大学、慶応大学。あと、東京女子大学。
O : たしかに、豊富です。やはり、学生俳句会の存在って大きいのですかね。
F : 同世代が集まるからね。結社だと、そういうことが少ないのではないですか。「澤」も含めて。いるにはいるけどやはり層が薄いかもしれません。それでも、学生俳句会のほうは指導に来て下さる先生の権力も結社ほどではないじゃないですか。
O : そうなってきますね。正直に言って、かなりゆるい(笑)。
F : 俳句のできる環境に選択肢がうまれはする。けど、俳句甲子園のダイナミックさと比べると、おもしろくないかも。それは否定のしようがないところがある。俳句甲子園はすごく非日常的で。句会は日常の中のできごとの1つで。
O : 俳句甲子園は団体戦であり、個人戦ではない印象ですね。俳句とはずれている。
F : 結社でも学生俳句会でもよいけど、あなたは句会に魅力を感じてないの?
O : そんなことはないですよ。例えば、「ゼロの会」はすっごく魅力があります。だから、続けたいとも思っている。
F : 何ていうかな。いろんな句会があるけど、基本的にだれもがホームグラウンドになるような句会を持っているでしょう?越智にとってのホームグラウンドってどこ?
O : つうの会。これに参加するために上京したといっても、過言はないかな。
F : 本郷句会と言ってくれないのがさみしい。参加しているのは?
O : 池田澄子、桑原三郎、原雅子などなど。自分にとって、尊敬できる人々ばかりです。
F : そう。自分がいたい場所ってどこにでもあるわけじゃない。俳句甲子園で俳句をやめていく人は、俳句甲子園が「ホームグラウンド」になってしまった人なんじゃないかな。
O : そうですね。OBOGとして俳句甲子園を支えようとするボランティアがいるわけですし。
F : 自分にとってのホームグラウンドは高校生の友達だけで俳句やってたときの感じ。先生がいなくてさ。1人1人感じがちがってて、10人しかいないから誰が作ったとかまるわかりなんだけれども(笑)。作者がわかってて取らせる面白さ(笑)。そういうのを無意識に求めている気がするな、今も。


●師事について

F : 今までは結社とか句会の話だったんだけれども、師事ってことについて少し。あなたは池田澄子の弟子ということですが、師事って何?マンツーマン授業?神野紗希さんも誰かに俳句を見てもらってるとか聞いたことあるけど。じぶんが言うかってなもんですが。
O : うーん、僕は澄子さんの人柄が本当に好きで好きで、こんな人に俳句を見てもらえたらいいなと思って。でも、なんか最近違うかも。
F : ちがうって何よ。
O : 俳句を見てもらう行為だけが、師事っていうことにはならない、ということ。傲慢かもしれないけど、弟子が師匠を越えなければ、師事という行為は意味がないのかな、と思って。だから、師事とは考え方の共有なのかな、と。最近考え始めて。
F : 考え方か。まぁ、共通項がないと喋って楽しくないもんな。
O : うーん、でも、難しいんですよね。
F : 感化される前から共通の考え方があったら、それはそうだろうけど。初心者のころから指導がかさなってくと、ある程度おなじ考え方にはなるでしょ、誰しも。
O : あー、でも、僕は違う。澄子さんの人柄に惹かれたから。結社における師事はそうやって生まれてくるんだ。
F : さぁ?イメージとしては親子の性格が似ている理由を言っただけでさ。自分の場合は 何年かボヘミアンみたくさまよって、先生がずっといなくて。だから、小澤實先生に関して言えば、「自分で先生を決めた」気持ちが強い。「結社育ち」という言葉はあてはまらないかも。少なくとも相子智恵さんを見ていると、こう、「師匠と弟子」の典型を見せてもらっている気がして、ちょっと羨ましいところもある。
O : だと、藤田さんにとっての師事ってなんですか。
F : 「師事」できたと思ってへんかも。それが何か知りたいくらい。
O : 藤田さんの略歴を見ていても、あまり「小澤實師事」とは明記してませんもんね。
F : すごく個人的な気持ちですが、「師匠」という言葉のニュアンスはもはや「神」に近くて。弟子って言うだけでも偉い感じがする。じぶんは偉い人はニガテなんで。弟子っていうより、ファン。あんまりおこがましく弟子は名乗れないです。
O : けど、じぶんはそれができない。だって、澄子さんは結社を持っていないからな…。
F : 同じ環境で育ったわけではないし、親子ぐらいの年齢差があるのに、その人と全く思想を持っているとは、おこがましい。そのどうしても越えられないものを意識してからが勝負だと思っています。それは自我とかとは全く別の次元で。
O : そうかな。全く同じは無理かもしれない。でも、それに近づけさせることは可能なはずです。
F : 近づけることに意味を感じていないというかね。それで最高値が叩き出せればもちろんそうするけど。どうもそうじゃない感じがする。
O : 最高値がでたかどうかわからない。でも、じぶんは澄子さんに会って、「言葉遣い」を意識するようになった。それだけでも、考え方の共有ができたのでは、と思ってる。まだまだ、ダメなところも多いけど。藤田さんは、なんで、そのように感じられたんですか。
F : 「俳句想望俳句」という言葉の中には、現代の俳句ではどうやっても出せない言葉の重みが古典にはある、という共通認識がある気がする。その古典っていうのは、芭蕉でもいいけど、虚子だったり小澤實であったりもするわけ。時間スケールが少し異なるだけで。「俳句想望俳句」≠「俳句」という。『新撰21』で見たとき結構その標語にぎくっとしたかな。何が言いたいかというと、じぶんの与えられる言葉を、いかに効率よくというか、うまく使いこなせるのを探していかねばならんなぁ、と思っています。


●「傘」のこと

F : 今回「傘」を出すわけですけど、モチベーションというか、結構この雑誌をどうしていくかに関してちょっと喋りましょう。ゆくゆく「傘」の仲間を増やすイメージで、フジタとやろうと言ってくれたのか、最初から最後まで2人なのか(たぶん、そうなんだけれども)。雑誌というか、ふつう同人誌には、その同人誌内で句会したりもするけど、2人で句会って、成立しにくいじゃないですか。しかも2人とも先生がちがうわけですよね。コラボレーションの仕方としてはかなり斬新ですよ。
O : はい、煮詰まってないですね。仲間を増やすというのは、今の段階ではないですよね。
F : うん。 じゃ、逆に1人で雑誌、というのは考えなかった?
O : 1人で雑誌はないですよね。だって、さびしいじゃないですか。もし、藤田さんとしていなければ、たぶん違う形で別の人と雑誌を作ってました。現に、詩人小林坩堝との話もあったわけですから。
F : そうなんですか。浮気された気分やわー(しくしく)。
O : 結果的には、めでたく結婚できましたやん(笑)。
F : あと、現実的に資金もね。
O : 資金は笑えないっす、正直。
F : ね。しかもvol.1がまさかのフリーと言う。胃が痛い。
O : でも、踏ん張りどころでしょ。ここは。
F : 「なんか若い人が作る雑誌って、見なくてもなんとなく感じわかる」っていうのが厭やったしね。
O : わかります。
F : これはちょっと見てもらわんと、という。まぁ、大きな流れのひとつとして、やってければな、って話ね。 いろんな人を巻き込んで行きたいなというのがあって。2人だけだからこそ、その他の人をいろいろピックアップできる強みってのがある。
O : 先日行った句会もその一部ですからね。
F : そう。第1回の特集が「佐藤文香」。でも、これははじまりにすぎない。
O : それは怖い(笑)。
F : 1人1人の評価軸をバックアップしたい。その意味ではどちらかと言えば評論にウェートを置きたいし。作品が全てってのもアリだけど、理論をかなり詰めた挙句、そこに当て嵌まりきらないもの。それにこそ価値があるのでは。そんなことを思います。
O : そうですね。けど、vol.2では「ライトヴァース」を取り上げるんでは。
F : 自分達が論じた「ライトヴァース」の範疇で消化しきれるだけの作家にはなってはいけない、という意味で。じぶんで垣根を作って垣根を越えるという。何と意味のない(笑)。
O : けど、なんか大事な気がします(笑)。その「ライトヴァース」に関係してくると思うのですが、先日、詩歌梁山泊が動き出しました。先を越されちゃった?
F : 「誰かがやればいい」って問題じゃないよ、これは。ゼミの発表でもさ、発表者がいちばん勉強するわけじゃない。
O : はい、これはじぶんたちがしなければいけない問題だと思う。絶対に、譲れないもん。
F : で、自分たちは短歌も現代詩も俳句もって訳じゃないでしょ?話が拡散しそうだから、ちょっとずつやろうって話だよね。不勉強なのもあるし。
O : そうですね。でも、勉強していてまたまた分からなくなってきました。
F : シリーズ物。全10回になったら、どーしよう(笑)。
O : たぶん、その前にばてそう(笑)。
F : ま、とにかく、どこの雑誌でもやりそうにない特集を組むのが売りですから。
O : とりあえず、vol.1で「佐藤文香」を特集したことは大きな意義があったかと思います。
F : それは反応次第です。自分でハードル上げるな(笑)。
O : そうなんですけどね、実際(笑)。
F : 内容ともかく、300部限定ですので、みなさんお早めに。創刊号で終わっちゃうかもしれないし。てんてろりーん。
O : そうですね。でも、そんな悲しいことにはしないから、大丈夫です。
F : こっちの気持ちが途切れなければいい。すごく気持ちが途切れることの怖さは知っているから。それでも出さずにはいられない、何か、だよね。みなさん9月9日発刊です。おたのしみに。

[fin.]

〔傘・創刊前夜祭〕生駒大祐

〔傘・創刊前夜祭〕
僕とフジタが『MOTHER MUSIC RECORDS』を聴いていたころ

生駒大祐


なぜか、最初は「陰陽師くん」だった。

理由は簡単で、はじめて僕が彼を認識したとき、彼が夢枕獏の「陰陽師」を読んでいたから。浄土真宗高田派本山である専修寺が隣接する三重の仏教校、高田高等学校の校舎内。春の日ざしがよく当たるその教室で。お互いがお互いを認識するようになると僕の彼への呼び名も「フジタ」に変わったが、僕が彼を「陰陽師くん」と呼んだときの彼のいかにも厭そうな顔は今でもよく覚えている。そんな始まりであったにもかかわらず、僕とフジタは友達になった。

僕とフジタ(当時の同学年のクラスメート達は「哲史(サトシ)」を読み替えて「テツシ」と呼んでいたが、僕はなぜか「フジタ」と呼んでいた)が俳句に出会ったのは高校一年。僕とヤマグチが俳句甲子園の募集を教室の掲示板で見たときだった。ヤマグチとは山口淳也のことで、僕の小学校からの友人だ。それまで俳句未経験だった僕とヤマグチは、「詩の一形態である俳句で他の高校生とディベートで戦う」というそのシステムに好闘心をかきたてられ(松山へタダで行けるという下心もあったかもしれない)、当時の友人に声をかけて出場することにした。その中にいたのがフジタだった。僕とヤマグチ、フジタ達の友人チーム五人ともう一チーム集まった五人の計十人は、それから高校生活を俳句に捧げる中で良い友人となっていった。

一年目の結果は公式には準優勝だったが、それはほとんどヤマグチの力によるものだったと言っていい。

その時のヤマグチの句は、俳句を始めて三ヶ月とはとても思えないほどに叙情と技巧を湛えていた。

 風死して海水深を秘めいたる
 蝉時雨樹齢の海の底にいて

一方、一年目の俳句甲子園でのフジタの句だ。同じく全くの俳句初心者のフジタは、物の力に寄る、少しごつごつした句を作っていたことがわかる。

 小鳥来る護岸工事の作業帽
 水門に汽船小さし夏帽子

僕ら十人が俳句甲子園への二年目の再挑戦を決意して鍛錬会を行って行く中で、僕らの句は徐々にぎこちなさを無くしていった。

 山吹やクロネコヤマト坂をゆく
 竹馬は九号棟を曲がりけり

切れ字を使いこなしながらもヌケヌケとした詠みぶり。彼は次第に俳句を通して自分らしさを出すことを覚えてゆく。それにはおそらく、叙情を強く俳句に打ち出すヤマグチの影響があった。

 鶏頭花ポテトサラダを作りけり
 天道虫眠る脱水槽回る

二年目の俳句甲子園は予選敗退。そのくやしさもあったのか、フジタは更に少し不思議な世界へと入り込んでいった。

 階段は螺旋空豆芽を出だす
 菜食主義となり泳げば夜光虫

選択された硬質な語彙。彼にとって俳句は自己表現であると共に、無防備な自我を守る言葉の防壁でもあった。

二年生の冬、大学受験が次第に迫る中。甲子園メンバーのマヤさん(小林麻耶)が神奈川大学俳句大賞を受賞したことで、僕らの中で俳句は一段落した感があった。僕もその一人であり、遠い沖に見える受験という暗雲に怯えながらも受験勉強に集中しつつあり、フジタを含めた友人との交友も途絶えがちになっていた。

しかし、フジタはそうではなかった。彼は僕が作ったホームページの掲示板上に「scrub-zoo」というハンドルネームで俳句をぽつぽつと書き連ねていた。

 白墨で描く白鳥自嘲癖
 金魚玉ベンとゴローは愛し合ひ
 団栗8£ F君今日死んダ?

この生身とも呼べる句群。僕にとってそれらの句はまさに脅威であった。受験を言い訳に俳句から逃げている自分をまざまざと見せ付けられるようで。それが分かっていながら、僕はフジタの繰り出す俳句から目をそらすことで弱い自我を守ろうとした。

フジタはおそらく逆だった。純粋に心から出た言葉を用いた俳句によって自己を守る繭を作り、その中で自分自身を再構成していたのだろう。高校時代のフジタと今のフジタの間に感じるギャップ。おとなしく自信なさげな彼と迷わず己の道を邁進する彼。その変化はゆっくりと、しかしおそらく確実なものだった。

そして僕とフジタの交友は、この頃から二年間ほどほぼ途切れる。

それは受験を機に僕が俳句から遠ざかっていたこともあるし、同じ大学進学後も僕が俳句に手をつける余裕がなかったこともある。

その間彼が何処で何をして、何を考え、どんな俳句を作っていたのか。それを僕は知らない。


大学二年の半ば。僕が再び俳句をはじめたのをきっかけにフジタと僕との親交が再開する。いつの間にか彼、は友人の間で「ふじT」と呼ばれるようになっていた。

それでも僕は久しぶりに会った彼をフジタと呼び続けた。それは今に至る。

その秋には二人で、一日百句を行った。そのときの句には

 挨拶のあと一刻の水遊び

などがあった。

力任せで切実感が強かった高校時代の俳句とは異なり、このときの句には軽やかな明るさと技巧の妙味が感じられて、僕はとても驚いた。フジタは二年の空白の間に俳句の繭から脱皮し、俳句を身に刻みつけることで僕の少し高みに登っていた。
そんなフジタを僕は眩しく思った。

それから二年。あの空白の二年とはまた違ったところにフジタはいる。

 夏痩の汝と我やめがねして
 月垂れて空青くある懐炉かな

あれからフジタは俳句形式をさらに自らの中に浸透させていった。そして、「俳句らしい」俳句から、じぶんの生身の言葉を最も純粋なかたちで届かせるための手段として俳句を用いるようになった。その届けたい相手とは、大学時代に出会った同世代の俳人、結社の俳句仲間たち、だ。そして、その相手は共に俳句を始めた高校時代のあの九人のことであるようにも、思うのだ。

〔傘・創刊前夜祭〕上形智香

〔傘・創刊前夜祭〕
私たちって、そんなに親しかったのかしら

上形智香


越智友亮とはどのような人物なのか、という質問を受けると、とても困る。うまく答えられないのでは、とさえ思ってしまう。だから、この紹介文を書くように頼まれた時も、正気に言ってしまえば、何度も断ってしまおうと思った。だって、何を書けばいいのかわからなかったから。でも、引き受けてしまったんですよ。引き受けてしまった以上、書かなければなりませんね。とりあえず、シャープペンをにぎりながら、ルーズリーフと向き合ってみることにしますか…。私、パソコンができないので。

彼を表す言葉はいろいろあると思うのだけれども、私は「変人」がいちばん近いのではないかと思う。「変人」というと、マイナスなイメージで受けとられるかと思うけれど、決してそのような意味だけで使っているのではないのです。確かに、何を考えているのかわからないような面もありますよ。いえ、ほとんどそんな感じですけれど…。。

エピソードを紹介しないで、彼を変人扱いするのは失礼ですね。ここで、彼の変人っぷりの一場面を紹介しておくことにしましょう。あれは、俳句甲子園でのこと…そういえば、彼と私の出会いは俳句甲子園。運命って、面白いですね。まぁ、今はそんなこと置いておきましょう。彼と関わったのは、高校三年の俳句甲子園でした。一応、前の年からの知り合いでしたけれど。決勝トーナメントの一回戦で対戦して、悔しい思いをしました…はぁ。くねくねとした動きと話し方から、変な人だとは思っていたけども、それ以上に驚いたのは、朝の呼び出し。俳句甲子園最終日、みんながバイバイっていう日の朝に、いきなりの呼び出しですよ。私たちって、そんなに親しかったのかしら、と思いつつ、お話をしました。他愛のない話でしたけれど、とても楽しかったと記憶してます。私、実は結構人見知り激しいのに、自分、こんなに話せるんだってくらい話しました。変人の持つ不思議な力なのかもしれませんね。そんな人なんですよ、彼。

だけれども、その延長からなのか、彼には人が思いつかないようなことを軽々とやってのけてしまうというような面もあります。破天荒、とでも言うのでしょうか。それに、フットワークが軽いので、興味がある場所にはふらりとでかけてしまう。とにかく、行動や考え方が予想できない人物です。

ここまでずらずらと書いてきましたが、彼を知るのにもっとも良いものを紹介するのを忘れていました。彼をもっともよく表しているのは、彼の作る俳句でしょう。思い出したついでに、彼の作った句の中で、私が好きなものをいくつか紹介したいです。

  ひまわりや腕にギブスがあって邪魔
  手を振って駅は無人の金木犀
  ゆず湯の柚子つついて恋を今している

どの句から想像できる情景も、誰もが経験したことがあるような日常生活の一場面ですよね。そのせいでしょうか。彼の句を読むと、句から想像できる世界に引き込まれるような感じを受けてしまうんです。たとえば、「手を振って~」の句。この句を読むと、なんだか私、無人駅のホームにたたずんで、去ってしまった女性の残り香につつまれているような感覚に陥ってしまうんです。一人、物悲しい気分に浸ってしまうのですよ。こんな感じで、いつのまにか、読者が句の中のストーリーに組み込まれてしまうような句を、彼は作っているように思う。感じ方は人それぞれだと思うのですけれど、句と読者をつなげる強い力が彼の句にはあると、私は考えています。

もしあなたが、この紹介文を読んで、少しでも彼に興味を持ったのでしたら、実際に自分で会って、話してみるのがいいんじゃないのかと思います。気さくな人物ですから、来る者は拒まないでしょう。だって、わたし、拒まれなかったもん。うふふ。

あなたも彼の不思議な魅力に触れてみてはいかがでしょうか。