林田紀音夫全句集拾読 143
野口 裕
金魚の尾重たい昼の砂時計
昭和四十八年、未発表句。見立ての句。この砂時計で測る時間は長そうだ。
ピアノの夜に簪の紅濃く映える
昭和四十八年、未発表句。昭和五十年「海程」、「花曜」に、「簪の揺れほろほろと軛の童女」。直接の展開ではなく、昭和四十九、五十年未発表句に、「簪のさざめく日差し川波に」、「簪を子へ天上の雲の声」。おりおりに子の髪飾りに目を留めての感慨だろう。
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月明の笙篳篥の類いも器く 取された椅子絵硝子の十二月
昭和四十八年、未発表句。一句目、篳篥に「ひちりき」とルビ。「器」は「哭」だろう。二句目も、「取り残された」の誤記か。未発表句ゆえのご愛敬。これも読む楽しみの内にある。
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手を垂れて湾岸淡い朱に彩る
昭和四十八年、未発表句。高台から見下ろしたところか。「垂れて」が心理描写としては弱い面を持っているだろう。しかし、身体から雄大な景への視線移動を示唆して効果的に働いている。
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雨傘の下の花束共に歩く
昭和四十九年、未発表句。花束は雨傘からはみ出しているだろう。花束を伝って、花束を抱える手元や腕は濡れそぼっていることだろう。というような連想を誘うような句。
昭和四十九年の未発表句は十一頁ほど続くが、「海程」と「花曜」に発表できる句は、両者逢わせて二頁ほど。この句が選ばれる余地はなかったと、想像される。
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2010-11-28
林田紀音夫全句集拾読143 野口裕
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