2010-12-26

林田紀音夫全句集拾読147 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
147





野口 裕



白昼の穴へ喪服の前後する

昭和四十九年、未発表句。穴が何かの象徴のようであり、即物的のようでもあり悩ましい。発表句に、「白昼の回向につづき道消える」(昭和五十年、「花曜」)がある。分かりやすくなっているが、その分異様さはなくなっている。

 

大阪の灯へ着く草食獣となり

昭和四十九年、未発表句。作家は、かつての自作を否応なく思い浮かべてしまう。第一句集に、「大阪煙るカレーの皿と顔離せば」がある。あの時代のカレーから遠く離れてしまったとの感慨が、この時点の自身を草食獣と定めるのではないか。肉食獣のたむろする喧噪の中、草食獣も食わねば生きていけない。生きていくのに必死だった時代には考えられないストレスを溜めながら。



街騒の夜空を垂らし雨意つのる

昭和四十九年、未発表句。 第二句集および昭和四十八年「海程」に、「街騒に読経加わり血の透く耳」がある。そこからすると、昭和四十八年以前の未発表句に「街騒」を使用した句があっても良さそうに思うが、さっぱり見当たらない。逆に、昭和四十九年とその次の年に、上揚句を筆頭として、

 街騒のついにはかなく月更ける

 街騒の遥か尾灯の赤に染まる(昭和五十年)

 街騒にはるか月の黄竹の揺れ(昭和五十年)

 街騒の読経を歩く松並木(昭和五十年)
 
これだけの句が出てくる。ある瞬間、この言葉が句になりそうだ、との嗅覚が働いたのだろう。第二句集の出版が昭和五十年。出版準備時に、「街騒」を再発見したのかもしれない。

 

針山に影縛られた走馬燈

昭和四十九年、未発表句。針山に、走馬燈の動かない部位の影が映っているのだろう。過去の回想が、最後に行き着くところを暗示させる。


草に消える少年遠い輪の中で

昭和四十九年、未発表句。少年時代の回想をも含んでいようか。何の輪か不明だが、それゆえ輪廻の象徴に見える。

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