2011-02-20

もんでもみやま梓月かな 前篇 西村麒麟

もんでもみやま梓月かな 前篇

西村麒麟


先日、いつものように一人寂しく呑んでますと隣のカップルからこんな会話が聞こえてきました。
女「ねえねえ、好きな句集名って何?」男「うーん、『伯爵領』かな」
女「うふふ、私も」
まぁ嘘ですけどね、皆さん好きな句集名というのはありますか?僕なら、重信『伯爵領』郁乎『出イクヤ記』なんか好きですね、そして、最近急に好きでたまらなくなってきた句集名が『冬扇』、清らかで渋過ぎず、良いなぁ、秋扇じゃなくて冬扇ですよ、夏炉冬扇を踏んでるとしても洒落てます。

さてこの『冬扇』の作者が今回ちょこっと書かせてもらう、籾山梓月です、ご存知ない方がほとんどではないでしょうか?
僕も加藤郁乎著『俳の山なみ』を読むまで知りませんでした、この本はほんとに素晴らしい本で、みんな今日の午後にでも買いに行ってください、少なくとも僕には、籾山梓月、岡野知十、増田龍雨達を読もうという気にさせてくれた、すんばらしい本です。
で、今回はこの本の中で一番好きな籾山梓月を少々。
籾山梓月(もみやましげつ)、明治11(1878)〜昭和33(1958)の俳人です、経歴は説明しにくいので、あとがきを引用しちゃおうかな、以下『冬扇』あとがきの引用です

「梓月初めは発句を又照庵布川(南新二)に學び、次いで其角堂機一の門に入り、明治三十一去つて正岡子規へ走れり。今は老いて孤独を守り、殆んど俳壇と相忘れたるに等し。」

しぶすぎるぜ梓月翁、句を読む前から大好きだぜ。
さぁさぁやっとこさ始まります、読んで行きましょう。

では、句集の順番通りに読んで行きましょう。

『江戸庵句集』

此の節に友達もなし薗八忌

浄瑠璃の薗八節の事ですね、この流派が絶えんとするのを嘆いた句ですが、その事を、友達もなし、と表現したところがして面白いではしねできないはずです。

薗八はさみだる節やまくら紙 加藤郁乎

双六や眼にもとまらぬ幾山河
道中お話もなく双六の上りけり

二句とも大好きな句、まぁようは、双六絶好調、という事でしょう、道中お話もなく、だなんてさすがの梓月翁、すんなり上がった双六というありきたりな内容をこれだけ洒落た句にできる、腕が違うのよ、と言ったところでしょうかね。

『浅草川』

寒き日は船もすくなし都鳥

都鳥の都の字が寒さを助けてますね、江戸だぜ。

柳から舟の出て行く早さかな 井上井月

こっちも良いぜ(井月は南信の俳人)

深川や夕日にのこる屋根の雪

俳句を始めてすぐの頃は、このようないかにもな俳句っぽい俳句に反発したいお年頃がありましたが、今は句さえ良ければ楽しめます、だんだん野菜も好きになるように。これだって、深川、意外と動かないです、やってみると、おっ、と思うはず。

雪空に似てくもりたる重湯かな

雪空に似て、なんて絶妙、そんな感じですよね

うつうつと寝るや蒲団の穴の中

蝉じゃないんだから、なんだかかわいいですね。

春雨やぬけ出たままの夜着の穴 丈草

ルパン三世じゃないんだから、ルパン脱ぎでしたっけ。

蕎麦がきをせばやの炭火おこりけり

せばやの炭火、なんかが僕にはたまらん、好きです。

春めくや五重の塔に牡丹雪

絵に描いたような俳句ですね、平凡なようだけど牡丹雪が絵になる

ひといろの青きものなく風光る

これ前書が、大都会、ますます良い句に見えませんか?下五に風光ると置いたおかげで、郷愁だけではなく、都会美も表現する事ができてますね。

春の街馬を恍惚と見つつゆけり 石田波郷

感動が本物なら伝わってきます。

花売は昔ながらや春の雨

これは花売がと言っていながら、春の雨も昔ながらと想像させますね、いやぁ、にくいぜ梓月翁。

出すまじとすれどならぬや風邪の咳

出るもんは出る

あたたかに星うつくしや夜明前

春星のうるんだ感じが出てます

それぞれの星現るる寒さかな 太祇

これは冬の星の感じが出てますね。

春の日を粥にうくるや椀の中

風邪ぐらいなら治りそう、あたたかそうですね。

ちよこまかと小舟あやつる春の川

舟が頻繁に街中で使われていた頃はこんな感じだったんでしょうね、ちょこまかが小舟の感じが出てます。

十棹とはあらぬ渡しや水の秋 松本たかし

これも涼し

ほろにがき二月の雪の白魚かな

ほろにがきが良い、二月の雪も良い、全部良い、一杯呑みたいな。

魚売や雛にもてくる大栄螺

この句大好きです、まるで雛様に波の音を献上するかのよう、港町を想像する事もでき、イメージが膨らみます。

お雛様が栄螺を見て喜び興奮して

正気とは思へぬ顔の雛かな 大木あまり

となったわけじゃ、ないんだろうけど。

焼芋のまた売るる日や春の雨

焼き芋で春の雨があたたかに、春の雨で焼き芋が明るく感じられます。

京の人京へ帰りぬ春の月

この句も大好き、これもやっぱり京じゃなきゃいけない気がするんですよね、都である必要がある。江戸では賑やかすぎる気がします。

昔男ありけり我ら都鳥 富安風生

青柳や鍋洗ふ母鮒釣る子

青柳によって、母も子も元気な感じが出ています。

寒椿鍋つやつやに磨いてゐるか 川崎展宏

これは僕が展宏さんの俳句の中で一番好きな句。

別れさへ春あけぼのの夢の中

ぼんやりとあたたかで優しい別れ(と書いたら自由律みたい)

夢見ざる眠りまつくら神の旅 小川軽舟

まっくらとは言いながらそれだけじゃない不思議な色が見える。

やすやすとぬすむや垣のつくづくし

自慢気に言ったって駄目なもんは駄目。

『冬うぐひす』

何事も堪忍したる寒さかな

おしんのように、『渡る世間は鬼ばかり』の泉ピン子のように。

あらたまのとしのはじめや墓参

まづまっさらな気持ちで墓参から、というのが想いの強さを感じます。

アサヒカメラ新年号に付録なし 星野麥丘人

まっさらな気持ちで残念がる、とても人間味のあるおかしい句です。

手をぬけて鰈のすべる寒さかな

ぬけて、すべる、がリアルですね。

何に眼を寄せて若狭の蒸鰈 川崎展宏

亀虫のにほひきこゆる座敷かな

亀虫がきこゆる、なんだ、と面白い感覚。

おほよそに略して年をむかへけり

これもおかしいですね、まぁだいたいの家はこんな感じではないですか?

かまきりをいとはぬ萩のあるじかな

優しい主というのが伝わりますね、いとはぬ、だけじゃなく、萩の効果も強いのでしょうね。

『冬扇』

春暑し日傘に隠す東山

下五の東山、素敵過ぎますね。

材木の奥に帳場や春の雪

リアルですね、材木の色まで見えそう。

春雨や白粉にさす傘の色

不器用ですからと日本的にズイと差し出すのです。

恋人を扶(たす)けて登る春の山

可愛いですね、春の山が余計に

春の山叩いてここへ座れよと 石田郷子

いかものの文もなつかし梅座敷

これも大好きな句、誰からのどんな手紙も、手紙が来る事自体が贈り物のように嬉しい。確かにメールよりも葉書や手紙を受けとる方が嬉しい、手間がかかる分想いが込められている気がしますね。

昼の虫手紙はみんな恋に似て 細川加賀

富士の雪うつくし花の蕾む時

うつくし、までは平凡ですが、花の蕾む時とは素敵な言い回しです。

藤咲けば谷川山女釣れにけり

この句を梓月翁から教えられた門人達はきっと、藤が咲くごとに釣りを山女を、この俳句を思い出した事でしょう、一度口に出すと忘れない句。

おいでやす大根がよう煮えとりま 稲畑廣太郎

この俳句も一度口に出すと覚えてしまう、楽しいですね、煮えとりまって!

猫の子の破る狩野の襖かな

関係ないにゃー

鶯や世にうつくしき弁財天

これ前書が江の島、そう言われるとよくわかりますね。鶯が天からの使いのようでめでたい。

山はまだ木の芽もかたき小鮎かな

これ季語若鮎なんですが、うまいですね、若鮎を表現するために木の芽もかたき頃だなんて、見せつけてくださいます、梓月翁。

酒塩を焼蛤に利かせけり

利かせがミソ、美味しそう。

深川や女肩なる浅蜊売

すらっとした美女が良いな、小雪が良いな。そしたら買う、いっぱい買う。

鳴き交す二つの池の蛙かな

鳴き交す蛙を土佐弁で表現してみます。

元気しちゅうー?
しちゅうしちゅう。

あつあつの春の炬燵や京の宿

あつあつ、なんだか炬燵が生き物みたいで可愛い。

壺焼や壺の底なる浪の音

そんな壷焼きを私は食べたい(賢治風)

花漬や湯呑の底の夕ざくら

ゆのみ、という音がより薄い桃色を感じさせます。

櫻餠提げて敷居の高さかな

だからと言って食べて帰っちゃ駄目。

夏の日や黍落雁を袂菓子

落雁ってものすごいおいしいお菓子と思わないけど、良い名前だなぁと思い、たまに食べたくなります。食べたら俳句がうまくなりそうじゃないですか、たくさん食べて朝起きたら連句の達人になっていたり・・・はないけどね。

暑き日や人見ておろす腕まくり

この恥じらいが良いですね。

雲深き處に夏を惜しみけり

あ、この時代に夏惜しむ、があるんだ!?雲深きところなら夏も気持ちが良いでしょうね。

酒の外薬を知らず老の春

あとはウコンとか。

ちまちまと旅人行くや雲の峯

雲の峯がはるかな旅を感じさせますね、ちまちまこそ旅の楽しみ。

新芋のうま煮に一つゐる蚊かな

じーっと見すぎ、食べなさい、そして蚊を払いなさい。
卯波は新じゃがのうま煮がとても美味しい、蚊は居ないし、ご安心。

河鹿鳴く板一枚の小橋かな

板一枚がリアル、景色がよく見える。

緋目高と目高と別れ別れかな

ともに繊細な命、目高というのがあわれで良いですね。

浴衣縫ふや思ひやりなき人の為

とても好きな一句、僕は四谷怪談のお岩さんを想像してしまいます、伊右衛門はすらり色白男前、非凡な悪人、それがいっそう美しい。

素袷やそのうちわかる人の味 加藤郁乎

よそゆきの顔してゐるや手に扇

ちょっと見栄を張り、それでいて心はうきうき。

冷奴つめたき人へお酌かな

うおぉー??何たる名句!!ちょっともう一回読んでみよう。

冷奴つめたき人へお酌かな

僕はこの俳句も伊右衛門のような色白な良い男が見えます、正直なところ、僕はこの句を『俳の山なみ』で初めて読んで、これは梓月とは大変な作家だと思い、連日恋い焦がれるように俳句文学館に行って読み漁るようになりました、文句無しの梓月の代表句です、この句を知る事ができただけでも『俳の山なみ』を読んで良かったです。

冷奴今日るすの子の茶碗かな 増田龍雨

龍雨との冷奴達人対決

冷奴十年早い奴共 加藤郁乎

簡単に冷奴を詠んじゃいけないって事ですね。

朝川や涼しき秋の一泳ぎ

爽やかとか書いてないのですが、爽やかですね。実に気持ち良さそう。

夫婦して庭にすずむや芝の露
白露や共に苦労をしたる人

とても優しい句、思い出を映した大粒露がきらきらと見えます、一句目、すずむ、二句目、共に、がミソです。

露草も人の心も朝素直 後藤比奈夫

臼一つ救ひあげけり秋出水

薄野に富士をまともの茶店かな

そんな茶店でだんごが食べたい(賢治風)

沙魚釣りて品川の灯に戻りけり

品川と言い切ってるところが成功していますね、良い句だなぁ、品川に句碑でも立たないかな。

熊蝉の鳴く都なる暑さかな

都会特有の暑さが感じますね。熊蝉の鳴く、と言われただけでものすごく暑い。

秋はまだ帯の錦に扇かな

熊八「今日も暑いね、麒麟の旦那、秋はまだこねぇのかね?」
麒麟「秋はまだ帯の錦に扇かな、ってね」
熊八「よっ!俳諧師、うまいっ!!」
・・・僕の句じゃないけどね。

以上前半百句。後半百句は来週に続いてしまうので、元気な方は続きも読んでいただけたら嬉しいです。

1 コメント:

邦吉 さんのコメント...

はじめて覗いた「週刊俳句」に、なんと麒麟の旦那が、なんと梓月の句を100句紹介。そのライブ感に乗せられて、ぜんぶあっというまに拝読。梓月、いいよねえ。梓月ファンになかなかめぐり逢わなかったので、ちょっと興奮していますよ。後半もウコンに力を借りて(借りないかもしれない)、拝読しますね。