〔週俳2月の俳句を読む〕
声を聞かせて
三木基史
最近気になることがあって、宮嶋梓帆という俳人の作品を見かけなくなった。知り合いでも何でもないのだが、ときどき目にする作品にとても魅力を感じていたので少し寂しい。影響力のある週俳でごく個人的なことをツイートしてみたりして。(笑)
◎高野ムツオ「寒鯉礼讃」
視点はあくまでも寒鯉という「物(近景)」から動かないが、思考はグングンと遠景へ馳せる。そんな魅力ある作品群の中でも次の3句は特に興味深かった。
寒鯉の頭上うっとり鴨の脚
寒鯉の眼の玉だけで生きている
寒鯉の頭を星空へ突き出しぬ
◎生駒大祐「雛」
どの作品も平明で且つ読者に心地よい印象を与えている。つまらない鑑賞文など書きたくないと思わせるほど、個人的には大好きな作風。作品のひとつひとつがキラキラしているではないか。
説明に両手をつかふ蕨餅
稲荷寿司出さるる春季保護者会
ねぢあやめそれが話を聞く態度か
◎山口優夢「リツイート希望」
ひとりつ子ひとりで潮干狩の準備 山口優夢
とても現代的な日常の一コマ。潮干狩をしている様子ではなく、その準備風景に着目したところが面白い。
つばくろは電波とすれちがふだらう 山口優夢
発想の豊かさもさることながら、電波を生き物のように読ませる技術が巧み。目に見えない電波の存在を感じながら街を歩いてみたいものだ。
◎西原天気「あめふらし」
タクシーに滑り込みたるフェイクファー 西原天気
働く女性が帰宅する夜の景であっても、慌ただしい成人式の朝の景であっても楽しい。フェイクファーという言葉だけで当たり前のように大人の女性を連想してしまう。「失恋生活の四季」というサブタイトルも面白い。幾つになっても、ときめくような恋をしたい。
◎鴇田智哉「耳の林」
「耳の林」という言葉は造語なのだろうか。直感的に思い起こされたのは武田信玄の旗印「風林火山」の一節「徐かなること林の如く」である。
耳といふ肉が雑木のこゑを聞く
耳が肉だという実感はあまり無い。物質として肉であるということだけだ。けれども耳ほど肉体的に感覚が研ぎ澄まされている部位も少ない。風。雑木のざわめき。その場所に横たわる過去の物語までもが声となり、それを聞く作者自身もまた、紛れもなく肉の塊なのである。
■榮 猿丸 贋お化け煙突 10句 ≫読む
■関 悦史 初 音 10句 ≫読む ≫リンク付きテクスト
■鴇田智哉 耳の林 10句 ≫読む
■佐怒賀正美 だからバラ 10句 ≫読む
■神野紗希 簡単なこと 10句 ≫読む
■高野ムツオ 寒鯉礼賛 ≫読む
■生駒大祐 雛 ≫読む
■山口優夢 リツイート希望 ≫読む
■西原天気 ゆび ≫読む
■石川順一 雪中 ≫読む
■真鍋修也 咳 ≫読む
■赤間学 風葬 ≫読む
■西原天気 あめふらし 失恋生活の四季 ≫読む
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2011-03-06
〔週俳2月の俳句を読む〕三木基史
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