2011-05-01

【週俳4月の俳句を読む】自らを深入りさせて 鶴岡加苗

【週俳4月の俳句を読む】
自らを深入りさせて
鶴岡加苗



春の野に触るる指先広げたり   矢野玲奈

ピクニックか、散歩の途中か、春の野に腰をおろして手をついた。その手から指先へと焦点が絞られたのち、さらにその指先を「広げた」ところが、この句の眼目だろう。なんでもない日常の風景に、自らを深入りさせていくような感覚。作者と春の野との交歓に共鳴した。
私の個人的な好みではあるが、このような一見さりげない表現の句に、上質のエロスと女性性を強く感じる。

実は、この句について書こうと抜き出しておいて考えているうちに、私の中で勝手に「春の野に」を「春草に」と置き換えて読んでしまっていた。「春草に」の方が具体的で、広げていく指先の感触もよりセンシティブになるのでは、とも思う。しかし、春の大地との交歓というスケールの大きさこそ、今この作者の目指しているものなのかもしれない。

彼女の句に、「ぎちぎちと革手袋の祈りかな」があるが、手指の感覚に優れた句を作る人だと思った。


第206号 2011年4月3日
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第208号 2011年4月17日
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