【週俳4月の俳句を読む】
しずかに春が
浜いぶき
譲られしふらここのまだ揺れやまず 矢野玲奈
ぶらんこは、公園のなかでも人気の遊具だ。大抵、いつもこどもの列ができている。ひとりのこどもが、ぶらんこを次の子にゆずる。元気のいい男の子だったのだろうか、彼は勢いをつけたまま、ぴょんっと前に跳んでぶらんこを降りる。待っている子は、少しおとなしい女の子だったのかも知れない。そのぶらんこは、なかなか揺れやまない。鎖を掴もうとしても、上手に取ることができない。女の子はそこに立ち尽くして、ぶらんこが揺れやむのを待っている。
この光景を見ている作者は「大人」である。譲ってもらったぶらんこに乗ろうとして、でも、鎖をまだ掴めない子どもに、幼い頃の自分を重ねている――のかも知れない。けれど、そうではなく、「今」の作者自身の何かが投影されているように自分には感じられた。そして、それが何なのか明かされていないところが、この句を支えているのだと思う。
慣性で振れつづけるぶらんこの、その揺れの中に、作者は何かを見つめている。飛び交っているはずのこどもたちの声は、そこには聞こえていない。鎖が立てる金属音がきしきしと鳴る。譲ってくれた子は、もう、どこかに走って行ってしまった。砂埃がちいさく足元に舞う。辺りには、しずかに春が満ちている。
第206号 2011年4月3日
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第208号 2011年4月17日
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第209号 2011年4月24日
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2011-05-08
【週俳4月の俳句を読む】浜いぶき
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