【週俳4月の俳句を読む】
思うままに
大石雄鬼
もらひ泣きして庭先の梅を見て ひらのこぼ
この梅は白だろうと勝手に決める。テレビを見てても日常でも、自分から泣き出すよりももらい泣きする確率の方が圧倒的に多い。感情はもしかしたら他者に依存している。そんな自分を確かめるように庭先の梅を見る。
季の移りゆきつつ日々の座禅草 ひらのこぼ
季節は変わりゆく。そのなかで日々の座禅草は何を考えているのだろう。いや、日々の座禅草は私たちに何を考えさせようとしているのだろう。
暖かや島を包める星の数 天野小石
満天の星。荒海や…の句を連想するが、こちらは暖かい春の光景。島に対してやさしいまなざし。島を包んでしまうところが、すこし幻想的。
ふるさとに膝を崩して蜆汁 矢野玲奈
膝を崩すは慣用句であるけれど、そのままの意味で読むと妙に面白い(これは私の癖なのだが)。ふるさとに帰ってきて膝を崩してゆっくり蜆汁をいただくという光景。しかし、私には、ふるさとで膝が崩れて落ちてしまった姿が目に浮かぶ。
仏生会こんなところに抜け道が 矢野玲奈
仏の道に抜け道があったという感じ。あっけらかんとした表現がすっと心に入ってきた。
吊り橋へ躍り出でたる孕鹿 矢野玲奈
山中に棲む鹿。孕んでいるその鹿は、ふとした弾みで吊り橋に出てしまった。孕鹿にとっての驚きと躍動感。生への賛歌か、不安感か。
野火渡るいのちがいのち照らし出し 福田若之
燃え盛るいのち。そのいのちが、自分を含め新たないのちを照らし出している。生きるということに、とことん拘っている作者の一作品。
さえずりさえずる揺れる大地に樹は根ざし 福田若之
さえずる鳥と、揺れる大地と、根ざす樹と。なにか大地も含め、すべてがこの宙に浮いている印象。宙に浮いている地球を見ている印象。
先は海さくら被りに小名木川 関根誠子
芭蕉とかかわりの深い小名木川。もうすぐ海に出る小名木川に桜が散っている。風情があり、語呂がいい
ビー玉のかくれてゐたり花の屑 関根誠子
なにかよくありそうな光景だが、この取り合わせはあまりないか。自然美の花の屑の中に垣間見えた人工物のビー玉。ビー玉自体は人工物だが、おそらくビー玉の中の模様は、人の手の及ばないものだろう。一枚の写真になりそう。
白梅はゆふべ枕にふれてゐた 羽田野 令
どの句も不思議さが漂っている作者。この句も不思議。白梅の触れていた枕には頭を乗せていたはず。頭のすぐそこまで白梅が来ていたのだ。白梅だから、なにかそんな気がしてくる。
町の音に少しのくぼみ梅の花 羽田野 令
町の音に少しくぼみを感じたのか、梅の花が少しくぼんでいたのかよくわからないが、両方の印象をそのまま呑みこんでみる。すると、町がくぼみ、梅の花がくぼみ、そのふたつがオーバーラップする。この町はきっと、寂れた、中小の工場のある町だ。
第206号 2011年4月3日
■ひらのこぼ 街暮れて 10句 ≫読む
■天野小石 たまゆらに 10句 ≫読む
第208号 2011年4月17日
■矢野玲奈 だらり 10句 ≫読む
■福田若之 はるのあおぞら 10句 ≫読む
第209号 2011年4月24日
■関根誠子 明るい夜 10句 ≫読む
■羽田野 令 鍵 10句 ≫読む
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2011-05-08
【週俳4月の俳句を読む】大石雄鬼
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