〔週俳7月の俳句を読む〕
水滴のつく日
五十嵐義知
川よりもゆっくり歩く緑雨なり 室田洋子
河骨や混み合っている洗面台
この川は急流ではなく、川幅が大きくなる下流域の川であろう。両岸の新緑の中を木の葉や枝が川を流れているのを見て、歩みよりも早く流れる川を意識したのだろう。「緑雨」には明るさの中の雨という感じがあるが、ゆっくりと流れる川と作者の歩みが、穏やかな新緑の頃の風景を思い起こさせる。「河骨」の句。一読、「水」でつながっている「河骨」と「洗面台」である。一句目の川の流域に咲くのだろうか。黄色い花が茎の先端に咲き、背景には大きな葉とその隙間からのぞく水面という映像が思い浮かぶのだが、洗面台という言葉からか、水の流れの微かな音までも聞こえてくるようである。もう一つ思い浮かんだ景色が、洗面に歯ブラシが並ぶ景と洗面台そのものの景である。歯ブラシの頭と柄、洗面器の部分と給排水管の部分が、河骨の花と花茎を連想させたのである。
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改札にあつまる登山靴の泥 三吉みどり
登山道への最寄り駅を想像すると広く大きな改札ではなく、改札口が一つか二つほどの小さな駅だろうか。一つの改札を通るために乗降客が一列になる。そこで靴についた泥が落ちて集まるのである。駅の改札と靴から落ちた泥を詠んだ句であるが、そこを行き交う人の様子や登山に向かうあるいは登山を終えた後の足取りが想起できる。すがすがしい高原の空気と、緑豊かな夏山の景色が想像できる句である。
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レコードの古き拍手や夜の秋 堀本裕樹
古いレコード、そこに録音された拍手。演奏会をそのまま録音したものであろうか、演奏と演奏の間の拍手まで録音されていたのである。聞きとれはしないかもしれないが、話し声なども録音されていたのでないだろうか。雑音が混じった籠ったような拍手を「古き拍手」としたところが妙手である。「レコード」と「夜の秋」はありそうな取り合わせであるが、「古き拍手」が懐かしさや郷愁を増幅させている。何気なく聞こえてくるものがひどく気になることがあるが、作者はレコードに録音された主要な音源よりも拍手に心をひきつけられたのである。
第219号 2011年7月3日
■室田洋子 青桐 10句 ≫読む
■堀田季何 Waiting for… 10句 ≫読む
第221号 2011年7月17日
■大野道夫 明日へと我も 10句 ≫読む
■橋本 薫 人魚姫の花壇 10句 ≫読む
第222号 2011年7月24日
■三吉みどり 琉 金 10句 ≫読む
第223号 2011年7月31日
■堀本裕樹 浮 言 10句 ≫読む
ウラハイ
■西原天気 原子力 10句 ≫読む
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2011-08-14
〔週俳7月の俳句を読む〕五十嵐義知
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