林田紀音夫全句集拾読 182
野口 裕
雲の翳しばらく過ぎて草野球
昭和五十一年、未発表句。草野球を眺めていると、雲の影が通り過ぎた。意味としてはそれぐらいのことだろう。やっている方は真剣なのだろうが、眺めているとどこかしら浮き世離れした時間が漂い出すような時間感覚をうまくすくい上げた句。
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さびしさは打身の痣の朱を抱く
昭和五十一年、未発表句。これはだめでしょうというのを、たまには上げておく。身に起こった些細な不幸を敷衍して、共感性の高い句を創作するところに紀音夫の句の特徴があるが、これは些細であることがはっきりしていている。紀音夫らしい失敗作だろう。
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耳のうしろに久しくもつれ声の母子
昭和五十一年、未発表句。もつれ声は、母子の葛藤を暗示しているか。何事もないかのように前を歩いて、男親の出る幕はないようだ。
紙コップ抜く遠望の灯台に
昭和五十一年、未発表句。紙コップを抜く何気ない動作から生まれた一瞬の空白感が、それまでの意識の流れを断ち切る。高所にいて、はるか遠くの海原を見ている行為が、過去への追憶をうながすのだろうか。句の後半を有季定型に整えると、季語の存在が強く働きすぎて、空白感が生かされないおそれがある。
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2011-09-18
林田紀音夫全句集拾読182 野口裕
Posted by wh at 0:05
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