林田紀音夫全句集拾読 189
野口 裕
液体の悲しみビール泡消して
昭和五十二年、未発表句。往年のいとしこいしの漫才の種にでもなりそうな句。このようなユーモアを湛えている句は、師の下村塊太ゆずりだろうが、その方面については伏流したまま大きな流れにならずじまいだった。兜太のユーモアとも六林男のユーモアとも違う面があるゆえ、座の交流の中でも発展できなかったのかも知れない。
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電線のたるむ野に出て骨が鳴る
昭和五十二年、未発表句。「たるむ」に疲労感をにじませているが、表面はあくまで軽快にやや滑稽に「骨が鳴る」。強引に無季句へと仕立て上げている感、なきにしもあらず。
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胸の手の眠りの中を死者が棲む
昭和五十二年、未発表句。胸に手を組んで眠ることは、ありそうであまりない。ありそうに思えるのは、眠りに入る儀式として胸に手を組む場合、あるいは眠ろうとして無意識にそうしてしまう癖が付いた場合などではないか。要するに、作中の人物はまだ寝ていない。眠りを欲して横になっているだけ。そんなとき、眠りと死の親和性に思いをはせることは大いにあり得る。眠ろうとして眠れない脳裡に、様々の死者が思い起こされることだろう。
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行き暮れて硬貨を探す海ほとり
昭和五十二年、未発表句。自販機だろうか。タイヤが転がるようなスタイルで転がってしまうと思わぬ所に行ってしまう。気になったので確認してみると、五百円硬貨の発行は昭和五十七年。この当時はまだない。
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2011-11-13
林田紀音夫全句集拾読189 野口裕
Posted by wh at 0:05
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