2011-12-11

〔週俳11月の俳句を読む〕河野けいこ

〔週俳11月の俳句を読む〕
移動と残像

河野けいこ


絨毯を矢印果てるところまで  菊池麻美

先日「国会議事堂見学コース」なるものに参加した(衆議院)。

持ち物検査所を通過すると、一団となってぞろぞろと矢印の通りに大移動となる。元はきれいな絨毯だったろうが、赤い絨毯は中央が汚れて擦り切れて我々を待っていた。警備の職員があちこちに配置され、ふらふらと少しの逸脱も許されないコースである。

迷路のような議事堂の中を、興奮した声が矢印にそって移動していく。
写真を撮ることも許されないので、移動するしかないのである。

順路を終えて外にでると、必ず皆振り返って、あの三角部分を確認するそうだ。
絨毯を敷くような場所には、そういえば矢印順路が多いような気がする。
絨毯も人を誘導する道具なのだろうか。


鈴付きのねこ透きとほる冬の雨  山下彩乃

お孫さんの句などは「はい、そうでございますか」と素通りしてしまいそうになるが、猫の句は素通りできないのである。

それは猫好きだから、ついこの猫はどんな猫かしら・・となってしまう。
「鈴付きのねこ」は生きている猫なのか、窓辺の置物の猫なのか・・・

さっきまでいた猫がチリリとした音を残して去って行った。
透きとほるは、そんな猫の残像を表現したのではないだろうか。
外は静かな冬の雨である。

そんな風に思ってしまった。

透きとほるを読み手にまかせる句だから、
この句の前になおさら長く立ち止まってしまうのである。


笹木くろえ 流星嵐 10句 ≫読む
豊里友行 祖母眠る 10句 ≫読む
菊池麻美 神去月 10句 ≫読む
山下彩乃 野 蛮 10句 ≫読む
田中朋子 ビル風10句 ≫読む
宮本佳世乃 カナリア10句 ≫読む

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