2011-12-11

〔週俳11月の俳句を読む〕小沢麻結

〔週俳11月の俳句を読む〕
静と動の出合う時

小沢麻結

                  
ビル風に冬日の匂い攫われる   田中朋子
ルポライター音立ててゆく落葉道
抜け殻のブーツよれよれ聖夜の灯
けいと玉妹分として愛す


上記4句、たまたま静なるものとして季題が置かれている。

1句目、冬に吹く風なのだから、北風とか冬の風とか言えるところを、季感を殺した無機質な荒れた存在として「ビル風」をおいたことで、「冬日」のほの温かな日向の匂いが際立つ。高層ビルの合間では、ビルに遮られ日差しはなかなか地上に届かない。ビル風がその貴重な温もりを容赦なく攫っていくのだ。この季節、オフィス街を歩く時の鼻先で感じる寒々しさが実感される句である。

2句目、落葉を踏めばかさこそと音がする。その音が心地よく、言葉を交わしたり、思いを巡らしながら、誰かとあるいは一人歩を進めるのは楽しい。だがこの句で歩いているのは「ルポライター」で、それもわざわざ「音たててゆく」と表現していることから、ざっ、ざっとか、落葉なんか邪魔みたいに音高く足早に蹴散らしていく感じが伝わってくる。特ダネでも追っているのか騒がしい感じだが、ルポライターが通り過ぎた後には本来の落葉道の優しい静けさが戻ってくる。

3句目、脱いだ「ブーツ」と「聖夜」の取り合わせは、日常と非日常の出合いのようだ。「灯」まで言ったことで、特別な夜に華やいだ感じが備わる。脱いだブーツがくたっと折れているのは靴置き場でも玄関でもいいのだけれど、ブーツを脱いだ後の脚の開放感と一緒に、部屋にいる作者の寛いだ感じが伝わってくる。

4句目、こう言われてなるほどと思った。編み物をする時には、毛糸玉が遠く転がって糸が解け過ぎない様、またうっかり汚れてしまわないように、例えばトートバックに毛糸玉を入れる。自分の身近にバックおいて、編み進んで糸を引けば、毛糸玉はバックの中で応えるようにころころ弾む。自室で、リビングで、場所を変えて編む時には、連れて移動する。部屋の中で一緒に遊ぶ感じも妹分っぽい。やがて完成すればいなくなってしまうのだけれど。この感覚は実際編み物をする人でないとちょっとわからないかもしれない。


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