2012-08-19

林田紀音夫全句集拾読 227 野口 裕


林田紀音夫
全句集拾読
227



野口 裕




雛の間となっていささか暗くなる

風車日の中雲の中を来て


昭和五十七年、未発表句。有季定型の二句。

なまじの有季定型作家よりも、無季の俳句作家の方が季語をよく知っている、という評言をよく聞く。ただし、紀音夫にかぶせることはあまりない。この時期の発表句を見ると、ここに上げた二句のような自然体は少ない。いささか肩に力が入っている。そうしたことも原因の一つだろう。

 

泰山木の花より泛かび昼の月

昭和五十七年、未発表句。山村暮鳥の「いちめんのなのはな」がずっと続く詩「風景」に、「やめるはひるのつき」の一行がある。昼の月には、中途半端、不完全などの病的な連想がはたらく。泰山木の花との比較が印象的。「泛」の字も決まっている。句に欠陥はないが、有季定型の写生句と見られることを危惧しての未発表か。

 

ぶらんこの夜の音いつか遠くなり

ぶらんこを哭かせて風のいつか熄む


昭和五十七年、未発表句。三百九十九頁に一句、四百二頁に一句、ぽつりぽつりとぶらんこの句が置かれている。昭和六十年、「海程」、「花曜」両誌に発表した句に、「ぶらんこの天へ出て行く音しきり」(昭和六十二年「海程」にも発表)があるが、それの先行句と考えられる。この年の前にも、後にもぶらんこの句は見当たらない。この二句から直接推敲した結果が、発表句だったのだろう。ふらここ・半仙戯・鞦韆といった語を選択しないところが紀音夫なりの禁欲であり、繰り返し発表している点に思い入れが読み取れる。

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