〔超新撰21の一句〕
飛雪は刹那
柴田千晶の一句……野口 裕
三日前に撮ったCTを受け取りに、八時半に家を出る。電車は混んでいた。練習試合でもあるのか、多数の高校生が乗り合わせていた。何のスポーツかは分からず。かなり大きな荷物を抱えていたので、それも混んでいる一因か。高校生より早く下車。
病院でCT写真を受け取ると、新聞紙半折りほどの大きさ。かなり大きな荷物になる。リュックに入りそうにないので手提げとし、そのまま、かかりつけの個人医院へ写真を運ぶ。途中下車した駅まで戻ろうとしたが、乗り換えを挟んで三角形の二辺を電車で行くよりも、三角形の一辺を歩いた方が速そうだと思い直し、普段歩かない界隈を突っ切ることにする。その界隈は、昔々に平清盛が開いた新都だが、今はソープランドが林立する。
夏風邪をひき色町を通りけり 橋閒石
を思い出したが、CTを提げ色町を通りけりではなあ、などとあほらしいことを考えつつ通過。午前中から店の前に張っている客引きらしき蝶ネクタイがこちらを見ている。こっちはCTやで、と無言で会話。
そういえば、この辺が淀川長治の生地だった。彼は芸者置屋の息子として生まれたはずなので、歌舞音曲のたぐいが常に身辺をめぐっていたはずだ。さっき通り過ぎたのが、三味線屋だった。店の上をマンションとして、店自体のシャッターは閉まっていた。今は不動産で生計としているのだろうか。
閒石の句から、「風ひきたまふ声のうつくし」でも思い出せばよかったのだろうが、その方向には行かず、色町と花町の違い、というようなことを考え始めた。飲食店の立ち並ぶ歓楽街なら、どちらでもよいのだろうが、ソープランドの林立には色町でなければならないだろうが、芸者と娼妓の違いから、花町・色町の使い分けが昔からあったのかどうか?
CT提げながら考えることでもないが、「円山花町母の町」という唄があったなあと、連想ゲームのように思考回路は飛びに飛び、
円山町に飛雪私はモンスター 柴田千晶
に行き着く。松本てふこの解説によると、作者には東電OL殺人事件にインスパイアされた詩集があるとのことであり、円山町がその事実を含意としていることは間違いないだろう。この場合の色町は、ラブホテルの林立ということになるか。現地を知らない人間のイメージのみの話ではあるが。
今となってみると、東電OL殺人事件よりも、東電キャリアウーマン殺人事件あるいは東電女性幹部社員殺人事件の方がネーミングとしてふさわしいような気もし、ネーミングの違いがモンスターの所在地を個の内部に限定しすぎたような気もしてくるが、そういう時代だったのだ、と思うべきかもしれない。
もともと色町にしろ花町にしろ、時の流れに翻弄される場所であることは清盛の頃から変わらない。飛雪は刹那の不易流行をとらえて、象徴的である。
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2012-09-23
〔超新撰21の一句〕飛雪は刹那 柴田千晶の一句 野口 裕
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