2012-10-14

【週俳9月の俳句を読む】消えてしまう前に 岡本飛び地

【週俳9月の俳句を読む】

消えてしまう前に
 
岡本飛び地


あの人はきつと俳人鰯雲   後閑達雄

先月のある週末のこと、ある駅前の書店に入ろうとしたところ、隣の喫茶ルノアールから団体客が出てきた。十数人いて男女半々。50代から60代くらいの人がほとんどだったけど、20代の人も数人混ざっていた。あまり見かけない類の不思議な集団だったけど、そんなメンバー構成で喫茶ルノアールに入る人たちを私は知っている。俳人たちだ。

その集団のうち一人に見覚えがあった。
俳句関係で知り合った人ではなく、何度かお会いしたことのある同じ会社の人だった。今度会社で会ったらこの件について話してみよう、もしかしたら本当に俳句の人たちかもしれない、と思っていた。しかし翌週会社に行って、彼女はどうやら会社を辞めてしまったらしいと知った。

鰯雲はあまりちぎれたり繋がったりせず、ずっとそこにあるように見える。だけどそんなことはありえない。消えてしまう。あの人はきっと俳人と思ったら、消えてしまう前に、さりげなく歳時記をちらつかせて反応を伺ってみよう。



朝風呂のお湯のやはらか野分あと   西山ゆりこ

朝風呂のお湯は柔らかい。これは発見だ。
知人の中には2日に1回程度しかお風呂に入らないという人がいるが、私はやはり毎日お風呂に入りたい。それでも酔っ払って帰ってきてすぐ寝たいときもあるので、そういう時は夜の代わりに翌朝入浴する。そんなときのお湯は確かに柔らかい。二日酔いの頭と体を優しく癒してくれる。怠惰な自分さえ許してくれるかのようだ。
でも、埃が舞ったりしているだろうし、野分あとにはその日のうちに入浴した方が清潔なのは間違いない。



いなびかり地層地層の夢の彼   るふらんくん

朝目覚めてすぐ、今まで見ていた夢を振り返ることがある。
さっきまで夢の中で何してた?どこかの駅のホームにいて先輩と話していた。その前は?建物の中にいて、そこでも誰かと話した気がする。その前は何をしてたっけ…確かに何かしら物語があったはずなのに、思い出せない。
だけど、日中になってふとしたきっかけでその夢を思い出すことがある。
稲光がきっかけで、地層の奥深くに潜んでいたような夢を思い出すこともあるだろう。この句を読んで、そんなイメージが浮かんだ。まるでるふらんくんが本当に夢を見ていて、彼と夢にまつわる感覚を共有できたようで嬉しい。



臨終の真似したりして部屋でひとり   谷 雄介

一人暮らしをしていると、部屋の中で何をしようが自由で、私はその自由が好きだ。ペンシルパズルにいそしむもよし、台湾ドラマのDVDを見るもよし、ツイッターを読みふけるのもよし、軽く踊ってみるのもよし。しかし、臨終の真似は一人暮らしの自由行動の中でもかなりレベルが高い。試しにやってみたけどこれは辛い。息絶えた瞬間の部屋の静寂が痛々しい。こんなに一人暮らしが寂しくて辛いと感じたのは初めてだ。絶対もうやらない。

今、原稿を書くのに少し疲れて仰向けに寝転がってそのままバイクに乗る真似をしちゃった。これは辛くない。不思議だ。


るふらんくん 地層 10句 ≫読む
井口吾郎 沢庵自慢 10句 ≫読む
第281号 2012年9月9日
柏柳明子 流れ星 10句 ≫読む
小田涼子 夏あざみ 10句 ≫読む
第282号 2012年9月16日 
対中いずみ 膝小僧 10句 ≫読む
杉原祐之 ムースニー 10句 ≫読む
酒井俊祐 綺麗な黄色 10句 ≫読む
第283号 2012年9月23日
山口昭男 靴墨 10句 ≫読む
金子 敦 月を待つ 10句 ≫読む
後閑達雄 猫じやらし 10句 ≫読む
第284号 2012年9月30日
桑原三郎 すこし風 10句 ≫読む
西山ゆりこ 手紙 10句 ≫読む
谷 雄介 最近考えた事 10句 ≫読む

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