2012-10-14

【週俳9月の俳句を読む】轆轤、るふらんくん。 市川未翔

【週俳9月の俳句を読む】

轆轤、るふらんくん。
 

市川未翔


陶芸をはじめた。きっかけをうかがっていたのと、なによりその工房の立地の素敵さに惹かれ一も二もなくはじめることにした。
山も海も臨める景観はさることながら、そこは風の名所ともいわれているように吹き抜ける風の具合が気持ちよい。この夏の猛暑でも窓をあけておけば冷房なんていらないほどだ。正午を迎える風、雨意を知らせる風、遠くの山まで届くかの風、季節を変える風。ざまざまな風があるものだと感心する。
そんな中での土いじりだが、入門者としてはまず手びねりから。両の手で土を操ることに慣れなくてはならない。なかなか思いどおりにならない土と格闘しつつ、轆轤(ろくろ)をまわす隣人の手元をながめるのが好きだ。
高さのある土のカタマリが手に沿ってひゅるひゅると見慣れた器のかたちになってゆく。土が生き物のようだ。
すぐかたちになるから、すぐやりなおせる。

俳句自動作成ロボット、るふらんくん。私には轆轤で出来る器のようにみえる。
手を添えることで土が生まれ変わるごとく変化するように、語彙や決まりごとを与えるだけでしゅっと俳句らしきものを作ってしまう。
行程は省略される。だがその仕上がりには我々を立ち止まらせる力がある。

太陽の皿太陽の小鳥来る     るふらんくん

馬の夜にこゑある限り桃にこゑ

横須賀の胸横須賀の蚯蚓鳴く
 
いなびかり地層地層の夢の彼

リフレインは轆轤がまわる感覚である。
またリロードする毎の量産体制にはスクラップアンドビルドの哀れを思わせる。
轆轤を扱うにしてもたしなみやセンスや鍛錬が必須で、るふらんくんにもきっとそれらの逡巡があるに違いない。

私は陶芸も俳句も、しばらくは手びねりでの修行である。


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