2013-05-19

【週俳4月の俳句を読む】太田うさぎ 再度味わい直しもする

【週俳4月の俳句を読む】
再度味わい直しもする

太田うさぎ


木更津は大き月あげ酢蛤   篠崎央子

この文体、特に中七の「大き月あげ」はわりあいに目にすることが多い。だが、それを指摘したところで何になろう。ぱっと目に飛び込むや脳がピッと快感に反応したのだ。

理屈抜きとはいえ、どうして気持ちよく感じるのかくらいは考えてみる。ア、だ。「キサラヅ」のア音の連なりが終いの「スハマグリ」と調和している。

聞くところによると酢蛤は大阪が有名らしいし、蛤と言えば桑名をすぐに連想しもするが、だからといって土地の名を「住吉は」「伊勢湾は」と言い換えても(つきすぎ、というダメ出しはさておき)この句ほど直観的な好もしさは伝わらないと思う。

俳句を読むときには黙読していても頭の中では声を出しているものである。「キサラヅワ」と「A」音の口を開くことが次に続く月の大きさを自然と肯わせるのだ。

それに酢蛤がニクい。煮たり焼いたりしちゃあいけない。酢で〆めた国産の大きな蛤のむき身の色や艶と海上に浮かぶ月とがお互いを照らし合うようだ。

このような句を肴にお酒を飲むのもまたよいもの。

読み進めていくと、「日課」のタイトルに相応しく日々のある時間やある景色やある行為を描いていて、この句だけは作りからいっても内容的にも二句め以降とやや趣を異にしている感じがある。「ヒヤシンスに雫」「浮名の立たぬやう」「傘似合ふ妻」といった、袂に焚きしめた香のようなうっすらとした官能性が作者の本領なのかもしれない。

そう考えて再び一句目に戻ると酢蛤という季語ももっともな選択とも思え、再度味わい直しもするのである。

第311号 2013年4月7日
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第312号 2013年4月14日 
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第313号2013年4 月21日
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