【週俳8月の俳句を読む】
彼女について……
石原ユキオ
花粉愛隠すマスクか慰安婦か 井口吾郎
彼女は花粉を吸うとエクスタシーを感じる特異体質であり、花粉症でもある。ぐずぐずと鼻をすすり涙を流しながらも花粉を吸うのがやめられない。マスクは花粉を吸わないためではなく、花粉の吸い過ぎで爛れた鼻を隠すためのものなのだ。そんな彼女を娼婦ではないかと噂する者もいる。
冷蔵庫板に死にたい楮入れ 同
ある日、なにもかも嫌になって死ぬことを考えた。一人暮らしでは発見されるまでに時間がかかるだろう。いっそ冷蔵庫に入って死のうかしら。冷蔵庫の仕切りのプラスチック板を外して製紙工場から盗んできた木の板を入れてみたら棺のようになった。
蟬鳴きて瓶底ゾンビ的な店 同
彼女のいきつけは、度の強い眼鏡をかけた老人がやっている居酒屋。青ざめてむくんだ老人と傷だらけのカウンター越しに向き合うと、不思議と心が安らぐのだった。まだ蟬が鳴いている。夜なのに。夏も終わるというのに。
まあなんて暗い恋楽天な海女 同
彼女の恋人は船乗りで、港々に女がいるような男だ。いつ会いに来るともわからない。彼女は海に潜り雲丹や若布をとって生計を立てている。インターネットでも売っているが、手数料も広告費もかかるし、思うようには稼げないのだった。
第328号 2013年8月4日
■彌榮浩樹 P氏 10句 ≫読む
第329号 2013年8月11日
■鴇田智哉 目とゆく 10句 ≫読む
■村上鞆彦 届かず 10句 ≫読む
第330号 2013年8月18日
■井口吾郎 ゾンビ 10句 ≫読む
第331号 2013年8月25日
■久保純夫 夕ぐれ 10句 ≫読む
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