【週俳9月の俳句を読む】
なにごとも起こらない
小林苑を
愚かなるテレビの光梅雨の家
ぺらぺらの団扇を配る男かな
噴水の水に病む手を浸しけり
「ミント」 高柳克弘
愚かな、ぺらぺらの、病む、自負の世界。であれば青春の一場面。遠い目になってみるが、やはり遠い。
春月へるいるい瑠璃金しゃこ瑪瑙
烏賊の骨咲き狂いたる夫の骨
DDDD圧倒的にDの海
「モザイク mosaic」 佐々木貴子
心象の破片を寄せたモザイク。刺されば痛いだろう破片は綺羅めいて、溢れてきそうで溢れない。立ち尽くす。
ピーチ姫を助けに行くわたしは実はあみどだった
ばっきゅーんうちぬかれたハートはもうはつなつのチョークのよう
世の中の関節外れてしまったというか折れたんでしょめだかさん
「前髪ぱっつん症候群(シンドローム)」 内田遼乃
めだかはわたし、わたしはめだか。あみどにもなれるけど。止まらないモノローグに他者はいない。さてさてはつなつが気に入ったのかなめだかさん。
鉄塔の二百十日の高さかな
秋灯のひとつ港を離れけり
町名のここより変る白芙蓉
「草の絮」 村田 篠
季語の力を存分につかって、少しずらしてみせる。揺れが生まれる。心地よく揺られよう。
ごきかぶり客のゐぬ間にちりとりへ
ドリンク剤ひと息に飲み秋祭
おにぎりのセロファンはがし運動会
「客のゐぬ間に」 小早川忠義
いつもの日々の小さな祝祭もいつものように終わる。ふいに、なにごとも起こらないことが怖くなる。
秋扇としていつまでも使ひけり
団栗を持ちそれなりの気分かな
くるぶしの高さに差なし秋簾
「くるぶし」 今泉礼奈
季語に寄り添うどうってことのない、それなりの気分も悪くない。だからって、どうってことのない。
お母いたか塩摑もぅと故郷想う
新富座若き女形紅一点
鷹病まれオナニー尽くし晩成す
「二人姓名詠込之句」 仁平 勝
遊びは縛りがきついほど面白い。楽屋落ちは内輪でくすくす笑うのがいい。ことばで遊ぶのは楽しい。
満月に少しほぐしておく卵
鶏(にわとり)を乳白色に煮て白露
肉塊入スープ澄みゆく秋は金
「さびしい幽霊」 北川美美
気が付いたら、食物の句ばかり選んでいる。あの酷い夏が終わって、美味しい秋色。心もからだもほっとして、静か。
第332号 2013年9月1日
■髙柳克弘 ミント 10句 ≫読む
第333号 2013年9月8日
■佐々木貴子 モザイク mosaic 10句 ≫読む
■内田遼乃 前髪パッツン症候群 10句 ≫読む
第334号2013年9月15日
■村田 篠 草の絮 10句 ≫読む
第335号2013年9月22日
■小早川忠義 客のゐぬ間に 10句 ≫読む
■今泉礼奈 くるぶし 10句 ≫読む
■仁平 勝 二人姓名詠込之句 8句 ≫読む
第336号2013年9月29日
■北川美美 さびしい幽霊 10句 ≫読む
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2013-10-13
【週俳9月の俳句を読む】なにごとも起こらない 小林苑を
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