2014-02-23

林田紀音夫全句集拾読 304 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
304

野口 裕





炊き出しの列に眼鏡を拭いて待つ

平成七年、未発表句。発表句では、「炊き出しの昼来て逃げ場ない煙」(平成八年「花曜」)、「午後になる炊き出しの湯気ひとの息」(平成八年、「花曜」、「海程」)の二句。三句同時作成で、二句を選出し、一年後に発表という段取りである。

地震後すぐに発行された、朝日出版社の「悲傷と鎮魂−阪神大震災を詠む」(1995.4.20)には、寄稿していない。寄稿しようとすれば出来るだけの句量があったのは明白であり、寄稿はしないという意思があったはずだ。地震があった平成七年当時の「海程」、「花曜」の発表句も、地震とは無関係の句で前年の入院時の体験と推定できる句ばかりである。

三句を比べてみると、未発表句は最も平板かもしれない。しかし、滋味が最も味わえるのも未発表句とも言える。「ひとの息」は、まあいいとして、「逃げ場ない煙」は思い入れ過剰と見えなくもない。

ありあわせの布で拭く動作とともに、炊き出しの湯気と共にやってくる暖かな食べ物の匂いを、嗅覚はすでにとらえていることだろう。人の群れが近いようで遠い。

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