2014-05-11

【週俳4月の俳句を読む】全体から立ち上がるもの 宮本佳世乃

【週俳4月の俳句を読む】
全体から立ち上がるもの

宮本佳世乃



週刊俳句に掲載されている俳句は、特別な場合をのぞいて10句の作品である。10句を連作にするのか、一句ずつを並べるのか、どこに何を持ってくるか……。10句というのはなかなか難しい。そこで、今回は全体から立ち上がるものをみていきたいと思う。


川嶋一美 あゆむ

生物で10句を構成され、雉に中心が置かれている句が3句。雉は歩き方に特徴があって、いるだけでお茶目な感じなので、全体へ影響を与えている。

中でも、

  土よりもすこしあかるく雉あゆむ

を山にしたのは面白いと思う。

けれども、亀の亀泳ぎなどは遊びすぎの印象。

しかし、明るそうに、楽しそうには終わらない10句。

そういう意味では最後の二句は相互に意味がもたれかかるようにも見える。


近 恵 桜さよなら 

  家鳴りがして靴下に春の闇

靴下という救いを入れながらも、不穏な雰囲気があまる句からはじまる。

蹴っ飛ばされている日向の匂い、何度も書き直さなければ足りない文字、抱きしめられないと知っている陽炎などに象徴される、全体的に足りていない何かを探しているような印象の10句。

  桜さよなら狛犬は空を見て

それは些末なものにも宿り、かつ、死を想像させる。


西村麒麟 栃木

のどかな10句。それは措辞の選び方にあるんだろう。

  栃木かな春の焚火を七つ見て

  少し渦巻いて大きな春の川


七つ、大きな。栃木はどんなにおだやかで素敵なところなんだろう。

  鳥帰る縄の如きを連れ立ちて

連作中に縄や鏡、車などの名詞が効果的に使われている。

けれども、最後の句はすこし物足りない感じがする。

説明的で10句に流れる空気感の余韻が減るような。


野口る理 四月

  うぐひすを籠め温もれる紙コップ

  もうすでに未来の虻となつてゐる


生活感かつ質感のある言葉の入っている句が並ぶ。

感覚的だけれども、そこをすでに超えている感じ。

毎日が明日を迎えることを拒んでいないような10句だと思った。


曾根 毅 陰陽

一句目と最後の句から見ると、硬い言葉を使っている。

でもそれは印象だけであるようにも。

やけに、眩しくて、力抜いてなどの句を見ていると、そんなふうに思う。

  頭とは知らずに砕き冬の蝶

冷酷である。精神性が宿る部分である頭を砕いたから残酷なわけではなく、そういうことを意識していることが。


山本たくや 少年

最後の句は抜いたとして、少年の句が3句。どうしても甘さが抜けきらない。

  蛾の如く誘導せらるローソンの青へ

  月仰いで唾ペッてもっとペッてペッてする


この2句は少年という言葉を使わなくても、その存在感を表している。

10句全体からは、時間的展望がたくさんあるんだなぁという印象。

ちょっとだけ、うらやましい。


仮屋賢一 手紙

落ち着いている、ふつうの日常。

そこに内包される、うつくしさや澄んだきもち。

  受けらるるもの全部受け花水木

  春夕焼郵便受で手紙読む


作者の美意識の立ち上がってくる10句であった。


木田智美 さくら、散策

全体から、すこし懐かしい屋上遊園地のような、作られた世界のような、可愛らしさを感じた。

  神戸ゆくため真っ白のスニーカー

神戸っていうのはそういう街かもしれない。

  カナリアに横文字の名とアスパラガス

アスパラガスの唐突感がちょっとおしゃれを楽しんでいる感じ。


山下舞子 桜

体温を感じさせる10句が並ぶ。等身大の生活感がある。

  その部屋の匂ひとなりて春の宵

紙にも髪にも匂いは染み込む。一部になっていく感じ。

  さみしさは桜明るい窓の中

この句で終わる。こちら側の明るさとは裏腹に、さくらがあるが、ここでのさみしさは欠片のやうなものなのである。


第363号 2014年4月6日
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第364号 2014年4月13日
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第365号 2014年4月20日
曾根 毅 陰陽 10句 ≫読む
第366号 2014年4月27日 ふらここ・まるごとプロデュース号

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