2015-01-25

第6回石田波郷新人賞受賞作を読む(前編) 『賞の輪郭』  小池康生

第6回石田波郷新人賞受賞作を読む(前編)
賞の輪郭     

小池康生


週刊俳句から、受賞作を読めとのお達し。

わたしはすでに読んでおりました。

昨年、銀化12月号に石田波郷新人賞を取り上げたのだ。10月に書いて12月号に掲載。月刊誌の時間差はもどかしく感じることが多いのだけれど、Webの『週刊俳句』に明けて1月に書くというのは、紙媒体より遅いデジタルということになり、これはこれで面白い。

しかし、いま、再び作品と向かい合うと、いまさら受賞作のなかから選をして感想をまとめてもすでに誰かが書いたことをなぞることになり、それはとてもつまらないことに思える。

わたしの手元には、大会実行委員会のまとめた『石田波郷俳句大会 第6回作品集』がある。

これが面白い。90ページに及ぶもので、作品はもとより、巻頭言から選評まで興味深く読ませていただいた。

つまりは、受賞作品だけでなく、この作品集全体をどう読んだか、この賞をどう受け止めているか、そんなことを書くことになるのではと思いつつ、見切り発車で書き始める。



この賞は有名で、受賞者がどれだけ活躍しているかはよく承知しているが、作品集を読むのは初めて。

お恥ずかしい話だが、『石田波郷新人賞』として覚えていたので、ここに年齢制限のない一般の部や、ジュニアの部があることを存じあげなかった。あまりにも若者の登竜門として有名なので、「新人」という冠のつかない部門を知り、失礼ながらこの部門は宣伝不足ではないかと、余計なことを考えたりもする。

かなり以前に書いたことだが、俳句コンクールで、募集要項に50歳以下、40歳以下、30歳以下と年齢制限をつけることは、若者を刺激するには面白いことだが、その年齢より上の人たちは、疎外感を覚えるし、実際「年齢を制限されると、わたしたちは用なしと言われている気がして不愉快」と鬼の形相でおっしゃる先輩がいたし、人の口を借りているが、わたし自身遅れてきた青年ならぬ遅れてきたおっさんなので、年齢制限を見るたびに、自分たちに門戸は少ないと思うし、一方で、俳句人口を支えているのは、この制限された年齢よりも上の世代なわけで、その世代にも刺激敵な賞を用意するプロデューサーが現れてもいいのではないか・・・・ということを4、5年前に書き、それを読んだ七十オーバーの先輩から強く握手を求められた覚えがある。

もとい。

だからこそ、新人賞で有名な石田波郷俳句大会に、年齢制限のない一般の部があることをもつと広く知らしめてもいいのではないだろうか。わたしだけでなく、一般の部の存在を知らない人は意外に多いと思う。

それと、新人賞は20句ひと組で、一般の部は2句ひと組もしくは3句ひと組というのも、つまらない。大人の部門ももっと個性的、刺激的な企画にしてもいいだろう。若者向けの企画にだけパンチ力をつけ、一般相手は平凡でいいというのもおかしい(そういう気持ちはないでしょうが、わたしの筆は滑りに滑っているところ)。

おじさんやおばさんや、お婆さんやお爺さんだって刺激が欲しいのである。

話を戻すと、この一般部門の句、大きな声で言えないが、さほど面白くない。新人賞の方が断然面白い。それは一般が劣って若者が優れているのではなく、一般の部の募集要項に刺激がないからだ。

こちらの部門も話題になるような企画にすれば、もっと面白い句があつまり、ここからも俳壇に人材を送り込めることになると思う。

若者の賞を充実させるのと同じように、中高年の賞にも新機軸があってもいい。クオリティの上でも、俳句出版のビジネスの上でも、実はそちらの充実も必要ではないだろうか(なぜ、わたしが俳句出版のビジネスまで考える。筆はいつもより多めに滑っておりまする)。



話を戻そう。

作品集を読むのである。

角川『俳句』1月号にも受賞作品が掲載されているが、主催者発行の作品集は、さらに内容が詳しく読み応えがある。

読み直して気づいたことは、四人の審査員が、応募作全体の中からそれぞれ10句を選んでいて、これでコンクール全体のレベルが伺えるように思える。

なかでも、四人の審査員全員に選ばれ、しかも四人それぞれに別の作品を選ばれている人がいる。

作品名「しばらくは」の安里琉太(20歳)

濁りゆたかに寒鮒の桶を糶る  (甲斐由紀子選)
ははそはの母をはじめに初湯殿 (岸本尚毅選)
天井の影騒がしき氷水     (齋藤朝比古選)
白シャツに車窓の雨の影はしる (佐藤郁良選)

20句の作品で4句も抜かれ、それで奨励賞にも届かないとは不思議なことだ。

それ以外の句でわたしがチェックした句は―――――、

甲斐由紀子選から―――

なまはげに恋しき声の混ざりけり  石塚直子
なまはげで恋心の句。新鮮な驚きを覚える。

岸本尚毅選から―――

雲母虫大日本といふ時代      藤本智子
ある種、いまと響きあう時代の本。危険な匂いも。

扇風機ひよいと持ち揚げられにけり 浅津大雅  
強い風を送る扇風機の意外な軽さ。これも発見。

母老いて罪なき昼寝姿かな     樫本由貴 
20歳の人から見た母親。これからふたりの立場は逆転していくのだろう。

梅雨寒や地獄絵に我らしき人    横田福家
寒気だけでなく湿り気も。

ふらここや後ろが冬で前が春    大池莉奈
前に向かうのは、春だから。繰り返し読むと、後ろが少し怖くなる。

齋藤朝比古選より――――

花ぐもり鯉やはらかく衝突す    高瀬早紀
衝突なんてするのかなと思いながら、ぶつかっていく光景が想像できる。

ハンカチの刺繍うらがはよりなぞる 泉かなえ
「俳句的」という言い方は悪い意味で使われることが多いようだけれど、わたしはこの言葉を肯定的に使う。

星冴えて秒針の音硬きかな     下楠絵里
見逃しそうな甘い句だが、精神性が出ているかと。

彫刻のやうな顔して冷房へ     野住朋可
冷房に向っていくのに、彫刻のやうな顔とは。

佐藤郁良選より―――

潮干狩海見失ふこともあり    日下部太亮
海を見失う・・・気持ち良い驚きを覚える。

まだ、新人賞にも、準賞にも、奨励賞にもたどり着いていないが、来週へ。

(以上)

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