2015-11-01

2015角川俳句賞落選展 17 杉原祐之「日乗」テキスト

17. 杉原祐之 「日乗」

しやぼん玉吹く子吹かれて泣きたる子
畦塗の準備のままの猫車
奥ノ院まで石楠花の磴続く
子の髪に匂ひのありて夏近し *
遠足の子の聖堂に静まれる
監獄でありし砦に西日差す
遊船や屋根を開きて橋潜る *
忙しいふりアイスコーヒー持ちながら
明らかに人手不足の神輿来る *
図書館の駐輪場のリラの花
恋人の髪のやうなる海松を刈る
それぞれの色に熟して実梅落つ *
浜砂にやませの湿りありにけり
海の日や海岸倉庫飾らるる
物の怪のやうな音たて油虫 *
夕立の気配に露店畳みだす
制服の脛たくし上げ川遊 *
橋の上に踊つてゐたる虫送
天の川濃くなり冷えて来りけり
ホームへと飛び降りてゆく帰省の子 *
潮の香の増して来れる盆踊
報知器の響き渡れる厄日かな
廃校の窓に小鳥の来ては去り
南のほのと明るき無月かな
土管より頭を出せば秋高し
空港の管理用地の薄かな
刈取を明日と控へて稲雀
玉砂利に芝生に萩のこぼれけり
けふまでの展覧会や文化の日
秋祭隣の在の子も交じり *
古本の山を値踏みの夜学生
のつそりと担がれてゆく熊手かな
リビングの隅の聖樹の消し忘れ *
富士見ゆる坂の減りたる翁の忌
大いなる音たてて散る銀杏かな
黒土の濡れてをりたる火事場跡
数へ日の紙屑だらけ競馬場
演習の土嚢の積まれ枯野原
潜水艦へ氷の岸を伝はねば
要塞の島の岩盤凍てつける
キャタピラの轍の残り厚氷
聖堂の二重扉の虎落笛
スケートや渦抜けたくて抜けられず
初釜を明日に並べる妻の帯
蝋梅の蘂も香りも黄金色
早梅や湯島の岡の暮れなづむ
屋根屋根に雪を積み上げ町眠る
据えらるる鹿の剥製雪山家
懇願に近き主張の息白し
川原飯炊き終へ雛を流したる *

 *「俳句」11月号掲載句



■杉原祐之 すぎはら・ゆうし
平成十年「慶大俳句」入会。平成二十二年、句集『先つぽへ』。
『山茶花』『夏潮』

0 comments: