2017-07-23

中嶋憲武✕西原天気の音楽千夜一夜 第9回 山本リンダ「奇跡の歌」

中嶋憲武✕西原天気の音楽千夜一夜
第9回 山本リンダ「奇跡の歌」



天気●むかしね、『ザ・ガードマン』とかテレビ番組が夏になると必ず、怪談ネタをやってたんですよ。ふだんいちおう社会派なのに、夏になると、お化け屋敷が立つみたいに。

憲武●怪談ネタありましたねー。『キイハンター』などでもやってたでしょう。どこでもやってた。

天気●まあ、「百物語」が夏の季語なわけですし。

憲武●大勢の人が集まって、ロウソウを百本立てておいて一人一話ずつ化け物の話をして吹き消して、百本目が吹き消されると、本物の化け物が現れるという夏の風物誌ですね。

天気●というわけで、怪談ぽい、幽霊ぽい曲を取り上げたかったのですが、いまひとつ、いいのが見つからない。ゴーストバスターズは、納涼にならないしね。そこで、おどろおどろしいこの曲。

山本リンダ 奇跡の歌  1974年

憲武●のっけから涼しくなりますね。ちょっと「狂わせたいの」っぽいフレーズも出てきますね。

天気●阿久悠作詞なんですが、どんな奇跡なのか、最後まで聞いてもわからない。「とにかく奇跡は起こるんだ」と説得する側と、「ダメヨダメダメ」(どっかで聞いたセリフです)と拒絶する側。

憲武●「ダメよダメダメ」西川峰子の「あなたにあげる」にも出てきますね。奇跡は信じていれば起きると言っておきながら、結局そんなものは作り話だよと現実を直視させる。1974年当時の虚無的世相が垣間見えます。

天気●ひとり二役で歌うというのも、まあまあめずらしいですが、それよりも、この「ひとりリンダのひとりデュエット」、分裂症的な狂気を感じませんか。

憲武●狂気炸裂してます。デビュー曲「困っちゃうな」のぶりっ子の部分と、後年の再ブレークの「どうにもとまらない」「狙いうち」などのS的世界が同時に出てる感がありますね。この曲、作曲が都倉俊一なんですね。ピンクレディーを思わせるところもあります。

天気●というわけで、モンド音楽の女王・山本リンダの数々のトンデモソングの中でも、とりわけインパクトが強くコク深い一曲だと思うのです。

憲武●はい。

天気●70年代というのは、ヘンなものがいっぱい出ましたね。

憲武●仲雅美ポーリュシカ・ポーレとか、平田隆夫とセルスターズハチのムサシは死んだのさとか。

天気●また、微妙なところを。


(最終回まで、あと992夜) 
(次回は中嶋憲武の推薦曲)

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