【週俳8月の俳句を読む】
こころの距離
金山桜子
ヒロシマへはずっと行きたいと思っている。
ヒロシマは距離的にはそう遠くないけれど、何か目に見えない壁のようなものがあって、こころの距離が遠かった。
樫本由貴さんの「緑陰」30句より
原爆はほんたう花水木の陰る
ヒロシマは距離的にはそう遠くないけれど、何か目に見えない壁のようなものがあって、こころの距離が遠かった。
樫本由貴さんの「緑陰」30句より
原爆はほんたう花水木の陰る
水馬やみづのまだらを被爆以後
原爆ドームに楽止まぬ日や蚊に刺され
原爆を見し人氷菓吸うてをり
原爆ドームの奥を撮る子や苔の花
のど仏うすく苔生す樹なりけり
原爆以後この緑陰に人の棲む
どの碑にも蟻ゐるそれも大きな蟻
かつて爆心いまは入道雲のうら
白シャツやふくらんで風その匂ひ
萩を描かず原爆ドームのスケッチよ
若い感性で、現在のヒロシマを詠まれていることに共鳴した。
いや、そこで生活を営んでいる人にとっては「広島」か。
爆心地を詠んだ俳句では、金子兜太氏の〈彎曲し火傷し爆心地のマラソン〉があまりにも有名だが、これは1958年に金子兜太氏が38歳の時に詠まれたもの。マラソンの長距離走者と、長崎の、爆心地に住んでいる人のイメージが重なってできたという。
吟行句会に参加すると、同じ時、同じ空間を共にしても、句をなすときに切り取るものが異なってくるので、そこがとても興味深いと思う。
まして、金子氏と樫本さんでは多くのものが異なっている。
しかし、その土地でいのちのバトンを繋いでいる人々に寄り添う視点について、先の俳句は共通していると感じる。
現在の広島を描く樫本由貴さんのまなざしや、やわらかい感性が、詩情を漂わせている。
たとえば、それは、水馬のいる、まだらな水面だったり、また、碑に大きな蟻がいる光景だったり、夏空に映えるシャツの白さや風の匂いだったりする。
来年の8月には広島へ行ってみたいと思うようになった。
■矢野公雄 踊の輪 10句 ≫読む
0 comments:
コメントを投稿