2018-04-01

2017落選展を読む 8.「杉原祐之 上堂は難し」 上田信治

2017落選展を読む 
8.「杉原祐之 上堂は難し

上田信治

杉原祐之 「上堂は難し」  ≫読む


もう、おなじみというか、この路線のベテランというか。

この人の「写生」は、歳時記の中の言葉を、非価値的に、日常意識のなかに配置する。そんなふうにして、季題を(手の中にあるカードを示すようにして)だれか他の人にちらっと見せるという、ささやかな挨拶。

そこに、挨拶をされれば悪い気はしない、というささやかな価値が生まれる。

どぼどぼと溢れてゐたる若井かな
結納の席に獅子舞踊り込む


どうでもいいわけである。うそだと思うし。

ラーメン屋の湯気もうもうと寒に入る

どうでもよすぎて、おどろく。どうして、こう書こうと思ったのだろう。

雛段を支ふるビールケースかな
プールより上り海鮮丼喰らふ


作者が面白がっていることは、句の深さやひろがりにおいてはマイナスだけれど、もうあまり若くはないサラリーマン(という古風なことばが似合いそうな)男性が、いわば「ユーモア」の人であることは、いやなかんじはしない。

炊飯器より豆飯の湯気と音
踏切を待ちゐる山車の囃子急


豆飯の音というものがあるかどうかは知らない。いつもよりしゅぶしゅぶいうのだろうか。交通規則にしたがって止まっている山車の、お囃子がもりあがるところに差し掛かるのは面白い(踏切と書いてしまうところが、作者のユーモアの人たるところだ)。

雉鳴くや足湯に村を見晴らして

この「村」は好きでした。近年どこにでもある「足湯」という施設を使いつつ、観光客気分で言ってるでしょう。その気分の距離感みたいなものが、正確に書かれている。

2017角川俳句賞「落選展」

1 comments:

杉原祐之 さんのコメント...

上田信治さま
落選展50句お読み下さり有難うございます。
自分では季題の価値を最大限尊重して、季題から起こる感興を重視して句を詠んでいるつもりですが、そっけなく扱っているように思えるのは面白かったです。
詠み方はずっと変えていないので、マンネリといえばマンネリかと思います。
御礼が遅くなりましたが有難うございました。