2017落選展を読む
9.「鈴木総史 こゑを探して」
上田信治
鈴木総史 「こゑを探して」 ≫読む
草萌や時間を空けて飲む薬
まず、ていねいな作り方、という印象のある50句。
「時間を空けて飲む薬」とは、当たり前だけれど(立て続けに飲む薬などない)、そう言って描かれるのは、その薬と薬のあいだの時間のことだ。ちょっとノドにひっかかったような感じがあったりして。次のお薬の時間までを、この人は、春の草のやわらかさに、気持ちをむけている。
大げさに言えば、生きていることのささやかな手応えのようなものを書こうとする、そういうていねいさなのだ。
ただし、生えてくる草と、健康の回復の重ね合わせは、すこしていねいすぎるとも感じる。
置かれては少しずらされ雛飾る
蒲公英にまみれてゐたる消火栓
待春の少し大きめなる切符
季語は佳きものとして、それに、すこし現実の手ざわりとかフレイバーを加える。
小さな生活実感と、季語の扱い。
このていねいさ、今の俳句のマジョリティではないかと感じます。
ただ、読者の楽しみとしては、そこをすこしでも踏み越えるものを見たいと思うし、50句の半分くらいは知的操作で書かれている。知的操作自体は悪いことではないけれど、既存の季語の佳さの範囲でそれをやってしまうのは、そんなに実りの多い方法ではないかも。
がりがりとなにかを喰らふ花見かな
その島は鳥がおほきく花樗
がりがり、きもちわるくていいですね。
鳥が大きい島というのも。
ふつうの現実を書いているようで、ふつうを少し越えてくるような句。
2017角川俳句賞「落選展」
●
2018-08-05
2017落選展を読む 9. 「鈴木総史 こゑを探して」 上田信治
Posted by wh at 0:31
Labels: 2017「角川俳句賞」落選展, 2017角川俳句賞「落選展」, 上田信治, 落選展, 落選展を読む, 鈴木総史
登録:
コメントの投稿 (Atom)
0 comments:
コメントを投稿