2018-08-05

2017落選展を読む 9. 「鈴木総史 こゑを探して」   上田信治

2017落選展を読む 
9.「鈴木総史 こゑを探して

上田信治

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草萌や時間を空けて飲む薬

まず、ていねいな作り方、という印象のある50句。

「時間を空けて飲む薬」とは、当たり前だけれど(立て続けに飲む薬などない)、そう言って描かれるのは、その薬と薬のあいだの時間のことだ。ちょっとノドにひっかかったような感じがあったりして。次のお薬の時間までを、この人は、春の草のやわらかさに、気持ちをむけている。

大げさに言えば、生きていることのささやかな手応えのようなものを書こうとする、そういうていねいさなのだ。

ただし、生えてくる草と、健康の回復の重ね合わせは、すこしていねいすぎるとも感じる。

置かれては少しずらされ雛飾る
蒲公英にまみれてゐたる消火栓
待春の少し大きめなる切符


季語は佳きものとして、それに、すこし現実の手ざわりとかフレイバーを加える。
小さな生活実感と、季語の扱い。
このていねいさ、今の俳句のマジョリティではないかと感じます。

ただ、読者の楽しみとしては、そこをすこしでも踏み越えるものを見たいと思うし、50句の半分くらいは知的操作で書かれている。知的操作自体は悪いことではないけれど、既存の季語の佳さの範囲でそれをやってしまうのは、そんなに実りの多い方法ではないかも。

がりがりとなにかを喰らふ花見かな
その島は鳥がおほきく花樗

がりがり、きもちわるくていいですね。
鳥が大きい島というのも。

ふつうの現実を書いているようで、ふつうを少し越えてくるような句。

2017角川俳句賞「落選展」

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