太田うさぎ✕中嶋憲武の音楽千夜一夜
ムーンライダーズ「くれない埠頭」
ムーンライダーズ「くれない埠頭」
憲武●えー、今日はゲストをお招きしまして、いろいろ聴いてみたいと思います。太田うさぎさんです。
うさぎ●こんにちは。どうぞよろしくお願いします。好きな音楽のことを語っていいと言われてノコノコやって来ましたけれど、私は好きになるとそれだけで満たされてしまうので、ちゃんと話せるかなあ。
憲武●大丈夫でしょ。
うさぎ●すごく迷ったけれど、8月もおしまいということで、こちら。ムーンライダーズの「くれない埠頭」です。
憲武●おお、いいですねえ。
うさぎ●この曲が収められている「青空百景」は今でもよく聴きます。1982年リリースなんですね。36年前かあ。
憲武●ぼくも「青空百景」は好きなアルバムです。好きな曲がいっぱい入ってる。
うさぎ●ええ。ムーンライダーズとの出会いがこのアルバムだったので余計に思い入れがあるのかもしれません。
憲武●そうでしたか。ぼくは1977年発売の「ムーンライダーズ」です。
うさぎ●「火の玉ボーイ」は鈴木慶一とムーンライダーズ名義だから、「ムーンライダーズ」からというのは誕生のときから知っているんですね。羨ましい。「シナ海」も素敵な曲です。私は「青空百景」を起点にして新しいアルバムを聴きつつ過去も追っていく感じでした。「シナ海」も見つけました。
憲武●聴いてみますか。
うさぎ●みんなめちゃめちゃ若い! 今野雄二にもビックリです。
憲武●時代を感じますねー。当時は貸しレコード屋というのがあって、そこで安く借りるか、友達に借りるか、FMを細かくチェックしてカセットテープに録音するくらいしか旧作に接する方法って、なかったですもんね。
うさぎ●貸しレコード屋! 友&愛・・・懐かしいなあ。そう、当時はカセットテープでしたもんね。そういえば「マニア・マニエラ」はカセットテープで発売されたのを持っていました。
憲武●それ、カセットブックですね。あのアルバムは最初CDで出たんですよね。のちにアナログ盤が出て、CDが再発されて、何度も出てる印象ありましたね。
うさぎ●「くれない埠頭」ですが、全体に繰り返されるリズムが埠頭にゆっくり寄せては返す波のようで、メロディーも実に単純なんだけれども晩夏らしい気怠さが漂っています。この曲がアルバムのラストだけれど、一つ前が「物は壊れる、人は死ぬ 三つ数えて、眼をつぶれ」という、これも夏が舞台ですが、じりじりと追い込まれていくような曲なんです。エアコンもない真夏の四畳半にスリップ一枚でいるみたいな。で、そこから「くれない埠頭」に移るとふぅと息がつけるというか、開放された感じになります。この構成もとても好き。
憲武●最近はアルバムの構成とか抜きにして、曲だけを聴く傾向がありますからね。ネットで拾ったりして。アルバムの流れとか構成は大事です。
うさぎ●歌詞、曲とも鈴木博文によるものです。リーダー鈴木慶一の弟ですね。この二人、知らなければ兄弟とは思わなくないですか?
憲武●うん、そうそう。あるある。
うさぎ●お兄さんの慶一はぽっちゃり目ですが、弟の博文は小柄で華奢。作る歌詞も繊細でポエティックです。
憲武●文章も独特の味があります。
うさぎ●へぇ。読んでみたいな。
憲武●1988年に出た鈴木博文のエッセイ「僕は走って灰になる」とか10年後に出た「10years after」とか「9番目の夢」とか、その名もズバリ「青空百景」とか、いろいろ出てます。
うさぎ●ほほう。今度探してみます。
憲武●はい。
うさぎ●先ほど開放感と言いましたが、歌を聴くと「吹きっさらしの夕陽のドックに/海はつながれて風を見ている」ですからやっぱり行き所はないわけです。あ、行き所がないのではなく、居場所がないと言った方が正しいかもしれません。当て所なさとかね。
憲武●そこに叙情が生まれるというね。
うさぎ●1984年に一橋大学の学園祭でライブがあったんです。アンコールがこの「くれない埠頭」でした。最後はメンバーの演奏に観衆だけで「吹きっさらしの」から「残したものも残ったものも なにもないはずだ 夏は終わった」のリフレインをいつまでも歌って・・・。ステージと観客と一体になるとよく言うけれど、正しくそんなライブでした。ライブアルバムにこのときの演奏が入っていたんじゃなかったかな。あのアンコールは忘れられません。
(最終回まで、あと937夜)
(次回は西原天気がゲストをお迎えします)
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