佐藤文香✕西原天気の音楽千夜一夜
GRAPEVINE「なしくずしの愛」
GRAPEVINE「なしくずしの愛」
文香●こんばんは。今夜はお呼びいただいてありがとうございます。
天気●お越しいただいて、こちらこそありがとうございます。ラクにしてくださいね。
文香●GRAPEVINE(グレイプバイン)というバンドをご紹介いたします。大学1年生のときに知ってからずっと好きで、去年は20年記念ライブにも行きました。好きな曲は山ほどありますが、これは5年前の「なしくずしの愛」という曲です。
文香●ジャンル的にはJ-ROCKにあたると思うんですけど。
天気●エレキギターのアルペジオから始まるパターンは、このところの日本のロック・バンドに多いですね。
文香●そうなのか。でもたぶん、けっこうひねくれてて。
天気●たしかに。よくある静かに始まってサビでドカンというのとは少し違いますね。
文香●この曲が入っているアルバム「愚かな者の語ること」が出た当時のインタビュー(≫こちら)で、ボーカルの田中和将さんがこんなことを言ってます。
(前略)GRAPEVINEはデビュー当時から渋味のある曲をやってきて、ライブでも客をガンガン煽るようなバンドではないですよね。そういったスタンスを貫いているのはどういう気持ちからなのか教えていただけますか?
田中 パンクですよ。パンクに対するパンクです。
──スタイルに対する自分たちなりの反骨精神?
田中 そうです(笑)。まあ真面目な話をすると、そんなにロックのロックっぽいとこが好きじゃなかったのかもしれないなって思いますね。いわゆる若者の共同幻想的な感じと言いますか。そういうものを嫌ってやってきたような気はしますね。(後略)
たしかにライブのMCで「みんなノッてますか!? イエー!!」みたいなのが全然ないです。なんか私、こういうの好きなんですよね(笑
天気●ロックやりながらロックに照れる? この手の含羞は、ジャンルを超えてときどき見受けますね。
文香●どのジャンルにおいても、この手の含羞が好きなのかもなぁ。田中さんが関西弁なのもイイ。
天気●そこも?(笑
文香●歌とのギャップが。曲のことに戻ると、8分の6拍子に5拍子が混ざるのがかっこいい。
天気●おっ、凝ってますね。なにげなく5拍子が入ってくる。
文香●んで、後半の楽器ばっかりになるところは、トリップ感がある。
天気●2分11秒あたりからノイズっぽいブレイクがあって、それ以降、サイケ風味が増しますね。
文香●ですです。歌詞では
なしくずしの愛の行き先は
お医者でも草津の湯でも
ってところが好きです。
天気●草津節からの引用。これも「パンクに対するパンク」なのかもしれません。あのう、私が目を留めたところを言っていいですか?
文香●はい。
天気●ボーカルが持っているギター、ダンエレクトロ社製で、見た目がかわいいんですよ。「ロックだぜい!」というミュージシャンには似合わないデザイン。
文香●そうなんだ。ギター全然わからないけど、たしかにかわいいです。ちなみに歌詞には元ネタがあるらしく、というかGRAPEVINEの歌詞は元ネタがあるのが多くてですね、それは田中さんが読書家なのに起因してるんですが、この曲はセリーヌの『なしくずしの死』からきてるらしい(≫参照)。
天気●そうなんですね。セリーヌは読んだことがない。
文香●私も読んでないです。そういった引用みたいなとこで通底するものはあるものの、GRAPEVINEはアルバムごとに全然かんじが違うので、驚きたくて聴いてるところがありますね。
天気●なるほど。『海藻標本』と『君に目があり見開かれ』が「全然かんじが違う」ように?
文香●あー、恥ずかしいけど、言われるとそうです、自己模倣だけは避けたい、みたいな気分か。
天気●ところで、最近、歌詞を書いたんですって?
文香●はい。CRCK/LCKSというバンドの3rdEP「Double Rift」というアルバムに入っている、「O.K.」「たとえ・ばさ」という曲の歌詞を書いてます。平田俊子編『詩、ってなに?』(小学館)のお手伝いに行ったときに、生徒役だったミュージシャンの小田朋美さんと知り合って。そのあと歌詞を書いてみたいという話をして、書いて送りつけたんです。そしたら曲にしてもらえて、歌ってもらえた。
天気●Official Teaserでさわりが聴けますね。
「O.K.」はヒップホップ調、「たとえ・ばさ」はラヴソング。
文香●ライブもよいですよ。
さきに書いたのは「たとえ・ばさ」の方です。これは小田さんに宛てて書きました。
天気●宛て書き。俳句ではあまりしない感じですかね? 俳句は自分からの発話が前提っぽい。
文香●なんというか、そうでもしないと、何書いていいかわからなかったんですよね。「O.K.」の方は、CRCK/LCKSのライブを初めて見に行って、このバンドっぽい歌詞を書きたい、と思って書きました。
天気●歌詞を書く難しさってありますか?
文香●俳句に比べて長い。これは短歌や詩でもそうですね。あと、どこか笑えるところとか、へんなところをつくるようにしたいなと思って考えました。それは俳句でも同じかな。
天気●それではこのへんで。今回はどうもありがとうございました。
(最終回まで、あと936夜)
(次回は中嶋憲武の推薦曲)
(次回は中嶋憲武の推薦曲)
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