斎藤朝比古 選と選評
※作者名は選評をいただいたのち編集部で付記いたしました(読者の便宜を考慮)。
01 歩き出す(久保山敦子) 1点
比較的瑕の少ない作品。いかにも俳句的な措辞とレトリック。目新しさはないが、この安定感に捨てがたい魅力あり。
【帰りには片蔭できてゐたりけり】の衒いのない詠みぶりが好き。
02 白紙の願書(浜尾きら) 1点
俳句ずれしてくると、なかなか詠えなくなる少々おセンチな感慨を素直に詠える作者のウエットな感性。少々確信犯的感慨もあり。
【きやうだいのどちらかが泣く夏座敷】甘いと言われる方がいらっしゃるのは重々承知の上、この句をいただいてしまう。
04 枇杷(谷 雄介) 1点
わずか10句の連作だから出来た作品かも…と思うと、週刊俳句賞の選からは外せない。とにかく「枇杷」なのだ。なぜ「枇杷」か…なんてことを詮索するなんて野暮なことはやめよう。無理にでも枇杷を詠み込む、そんな苦行のような作品があってもよい。
【佳き時計はづし枇杷の実剥きはじむ】この時計、決してロレックスなどではないだろう。
07 着衣(岡田由季) 2点
日常と非日常のわずかな濃淡を詩的に掬い上げることのできる作者。これは感性というよりもひとつの才能だろう。
【如雨露から捩れた水の出てきたり】目の利いた一句。エロティックな風合いも。
20 更衣室(浜いぶき) 1点
独善に陥る寸前、独自の感性。表現しようとしている世界に共感するものの、やや措辞に粗さも目立つ。衒いなく詠う術を覚えると飛躍的によろしくなるポテンシャルのある作者と思う。
【遠泳やあたまのなかで歌ふうた】なぜか達観したような感慨。遠泳句としては異色のよろしさ。
以上5作品を推薦する。
他に最後まで候補に残った作品は以下の通り。
03 成層圏(榊 倫代)
表題の仰々しさが残念。
05 青い椅子(藤 幹子)
報告と詩。やや報告に傾いたか。
13 故郷行(中村光声)
作者の想いが生々しく表出し過ぎた感。
18 溺愛(中村安伸)
次点。表題と作品全体の醸す雰囲気のギャップが残念。
28 オイルタンクの空(近 恵)
10句に愛の句と恋の句が一句ずつあるのは、配慮不足で勿体無い。
32 ひるがお(宮嶋梓帆)
次点。現代を自分の身の丈で詠もうとしている作者に好感。一枚抜けた句が一句あれば入選だった。
最後に好き句を何句か
金星のやうに梅酒の梅沈む
青い椅子老いは泉のごとくなり
神木を垂直に這う毛虫かな
切り口を運河に向けて西瓜売る
鉱石の綿にくるまる涼しさよ
夏満月高架下より覗き見し
はだいろの西瓜の種を吐きにけり
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