〔週俳8月の俳句を読む〕
佐藤郁良
把握と表現
すいれんにけふのしろさのとどけらる まり
池の面に白い睡蓮の花が開いた。ただそれだけのことを、「けふのしろさのとどけらる」と表現したところに、えも言われぬ詩情がある。すべて平仮名の表記も、この句のやさしい世界を演出している。俳句は、やはり表現の力に掛かっているのだと再認識させてくれる作品である。
マジックの文字の強しよ文化祭 高柳克弘
もうすぐ文化祭シーズンである。校内のあちらこちらに置かれた、マジック書きの案内板が見えてくる。その筆致を「強し」と把握したところが、この句の眼目。案内板の前で、大声で客を呼び込んでいる学生たちの溌剌とした姿までも、ありありと浮かんでくる。
日盛りのぴしと地を打つ鳥の糞 村上鞆彦
夏の真昼、路上を歩いていたら、すぐ目の前に鳥の糞が落ちてきたのであろう。「ぴしと地を打つ」という把握のしかたが、鳥の糞の質感をよく言い当てており、その白さもアスファルトの上に際立つようである。「日盛り」という季語の斡旋も見事。
伝統的で古風な作品が多い作者だが、この句は非常に現代的。今回の10句、「蝉となるべく荒膚の幹を攀づ」「油照砂場の砂の古りにけり」などもよい。いずれも写実の目が効いていて、確かな表現力を感じさせる作品であった。
■八田木枯 世に棲む日々 10句 ≫読む
■井上弘美 夏 館 10句 ≫読む
■村上鞆彦 人ごゑ 10句 ≫読む
■ま り ガーデン 10句 ≫読む
■橋本 直 英國行 10句 ≫読む
■北大路 翼 ニッポン 10句 ≫読む
■野口る理 実家より 10句 ≫読む
■髙柳克弘 ねむれる子 10句 ≫読む
■山口優夢 おいでシンガポール 10句 ≫読む
2009-09-06
〔週俳8月の俳句を読む〕佐藤郁良 把握と表現
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