2010-01-10

〔週俳12月の俳句を読む〕三宅やよい 夢の軋み

〔週俳12月の俳句を読む〕
三宅やよい

夢の軋み




夢醒むる高さに冬の線路かな  村田 篠

夢が醒める高さに線路があるって?しかも冬である必要があるの?句会ならそんな突っ込みを入れそうだけど、一読この不思議な措辞につかまってしまった。目覚めの高さにある線路に音を感じたからかもしれない。夜中にふっと眼を覚ましたときに遠くを通過する電車の音がびっくりするほど近くに聞こえる。心細さを含むあの音にはひとりを際立たせる「高さ」があるように思う。そしてその音が続いてゆく先にある線路の残像、それはやはり空気が澄み切った冬でなければ味わえないものだ。

須賀敦子の『ミラノ 霧の風景』にある「鉄道員の家」の出だしがこの句にぴったりなので鑑賞に変えて引用したいと思う。

夢うつつに、聞いている。車輪が軋む。少し前進する。また軋んで、止まる。機関車の音が一瞬、大きく息を吸いこむように強くなり、こんどは行くかな、と思うと、また車輪が軋んで、列車は停まる。車輪の軋みが、まだ暗い部屋いっぱいに広がる。その繰り返しがさつきからつづいている。もう少し眠っておかなければ、昼間の仕事にさしさわる。そう思っても、車輪の軋みが眠らせてくれない。

物語はまだまだ続きますがこのあたりで。


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