第2回「週俳・投句ボード」2009年4月の俳句から
馬場龍吉・撰
4月の題詠は、「演」「目」「義」「経」「千」「本」「桜」。題詠は、誰もが発想するであろう作り方をしては身も蓋もない。出来た俳句は俳句として、引き算(自選)をしていき普通の出来方をしたものを消去していかなければならない。さて引き算の果てに残ったものは……
◎百千鳥クッキーとビスケットの違ひ 矢野孝久
変哲も無い言葉を羅列しただけじゃないか。と言えばそうなのだがそういうところから生まれるのも俳句。似ているようで違うクッキーとビスケット。まさに「百千鳥」もそうだ。さまざまな鳥の姿とさまざまな色や声が立体的に思い浮かんだ。
○アンカレッジ經由勿忘草摘んで 猫髭
句跨がりが気にはなったが、発想が面白かった。「アンカレッジ經由で勿忘草摘む」なら◎にしたいところ。わざわざ勿忘草を摘むためにアンカレッジに行ったみたいで、意味のないことに時間とお金を浪費するのも人間的でもある。
掲句以外にも〈花時を総務経由で来られたし〉も面白かったのだが、こちらは意味が有り過ぎるようにも思った。それでも諧謔性もあるので○としたい。
○にはとりの目が籠の目に春の昼 ameo
この籠は唐丸籠かも。と言っても「唐丸籠」そのものを見る機会が無くなった。鵜籠でもいいかもしれない。鶏の目と籠の目がチカチカする感じが春に相応しい。とはもちろん独断なのだが。
○虻唸る円空仏の目ぢからに 中村 遥
そんなハズはないところが俳句かもしれない。仏像はあくまで作り物なわけだから。しかし、精魂込めて造られた円空仏にはほんとうに目ぢからがありそうだ。
○看経の亀白絹の演者連 minoru
正直なところ意味が解るようで解らないのだが、読まなくても本棚に一応飾っておく百科事典のような有り難味をこの一句に感じた。強いて言えば意味のわからないところが面白い。
○桜茶のすつかり冷めてしまひけり ot
祝い事には欠かせない桜茶。開ききった桜花は見向きもされず、冷えきっていく桜を思うと可哀想なのだが、湯を注いだ時点でこれはこれで任務を全うしたのであろう。見向きもされないものに目が行くのも見事な俳人の目。
○春深し鵠沼義肢製作所 黒山羊
お題の「義」から「義肢」の発想は有るのだが、「鵠沼義肢製作所」の「鵠沼」が良かった。白鳥のりっぱ過ぎる体型にあの脚は不安定で、飛翔のときバランスをとったり、泳ぐときしか使われていないである。その白鳥の脚と義肢製作所が微妙に響いている。春の深さとてつも無くいい。
○鳥籠の網目を数え夢見月 ざんく
前出の〈にはとりの目が籠の目に春の昼〉と似ているようで異なっている。こちらの主役はあくまで鳥籠で、鳥籠の網目を見ている作者がまるで催眠術にかかったように眠くなってゆく。「夢見月」がそんな想像をさせてくれる。
○逃水の果てに経済学部かな 中村 遥
実景の面白さだろう。蜃気楼とは違って学舎は実際に存在するのだが、その大地の逃水の揺れはこれから受験する者の目からすると蜃気楼と紛うほどの遠さを思うことだろう。
○目に鱗肩に鱗翅が生えて春 黒山羊
「目から鱗」の連想からここまでの飛躍が面白く、カフカの『変身』にまで思いを馳せる。蝶の生まれる「春」に実感がある。
○目借時演目義經千本櫻 猫髭
恋愛話も折々に鏤められた義經千本櫻の吉野の「道行初音旅」。歌舞伎に興味があっても無くても目借時に相応しい。漢字表記が見事に成功している。
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