2010-06-06

林田紀音夫全句集拾読 118 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
118




野口 裕



鬼の子寝て梢に夢の星集まる

昭和四十二年、未発表句。子の寝姿を見ているうちに、自身を鬼として、鬼の子と観じた可能性はある。しかし普通に、鬼の子を蓑虫ととらえると、そうした苦みは背後に回り、上質の甘美さを有する句に変貌する。紀音夫の原質が思わず現れた、とも見える。

 

フラスコに少女水泡の声煮つめる

昭和四十二年、未発表句。「水泡」に、「みなわ」のルビ。キリコを眺めていたはずが、いつのまにかバルテュスに変貌したかのような不思議な気分を味わう句。この時期、吾子俳句も多いが、少女を我が子とも受け取りにくい。正体不明の少女である。

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旋盤に鉄焦げてわが戦後続く

昭和四十二年、未発表句。「わが戦後続く」で、駄目になっているだろうが、紀音夫にしても、旋盤の句はそれほど多くない。偏愛の対象とはなりにくいオブジェだったのだろう。

巻末の年譜によると、昭和三十二年三和動熱工業株式会社入社、昭和四十六年豊川鉄工株式会社に転職、となっている。ネットを検索してみると、豊川鉄工は昭和四十二年頃に三和動熱に勤務していた勝井征三氏が、独立して創業したようだ。

  勝井征三・参考 ≫こちら

紀音夫にとっても、仕事の上ではいろいろとあったことだろう。

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