林田紀音夫全句集拾読 121
野口 裕
空淡くのこり呟く灯の村落
昭和四十三年、未発表句。紀音夫は、都会の風景を基盤とする作家である。農耕を基礎とする伝統的な俳句の風景とはなじまない面がある。この句、佳句でありながら、もう一歩踏み込めていないと感じるのはそのせいだろうか。これから慌ただしく都会の我が家へ戻らねばならないという舞台裏を想像してしまう。
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ウイスキー底に近づき病む時計
昭和四十三年、未発表句。同年、海程発表句に、「底のウイスキー鳥類は黒くはばたき」(第二句集収録)。推敲の過程がはっきりと見える句、ということで取り上げておく。
深更に至る飲酒。下世話ながら、改稿した句から見ると、角瓶ではなくオールドだったのだろうか。安酒ではなさそうだ。
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雨に身を傾け鉄臭の路地過ぎる
昭和四十三年、未発表句。発表句、句集収録句の中に類似の句はない。鉄臭がここでは、効いている。
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月明り障子の影に軍馬を呼ぶ
昭和四十三年、未発表句。昭和四十四年、海程発表句に、「月明の障子に影の軍歌の手」(第二句集収録)。発表句は整ったリズムを持っているが、未発表句は軍馬に圧倒的な存在感がある。軍馬を軍歌にかえて良かったのかどうか。
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2010-06-27
林田紀音夫全句集拾読 121 野口裕
Posted by wh at 0:05
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