たいぎであった
西村麒麟
世のため人のため、などとはやっぱり考えず、太祇が好きなので太祇について好きな事を書きます。炭太祇(1709〜1771)、同時代の蕪村と親交のあった俳人として有名でしょうか。そして、なんと言っても京の島原遊郭に不夜庵を結ぶ、というあたりが、いかにも興味をそそる作家です。実際読んでみると、これが良いんです、想像をはるかに越えて作品が楽しい。これもあぁこれも好き、と困るぐらいなもんです。子規が喜びながら読んだのもうなずけます。では実際見ていきましょう。
目を明けて聞て居るなり四方の春
良いスタートです、いきなり良いですね、やわらかな光を見ているんですかね。こんな老後を迎える事ができるたらなぁ。
年玉や利かぬ薬の医三代
いやいや、三代に渡って駄目じゃないですか?
春駒や男顔なる女の子
春駒と置く事で、めでたさと凛々しさが感じられます、将来が楽しみ。
羽子つくや世ごころ知らぬ大またげ
あんみつ姫というか、じゃじゃ馬的な女の子を感じます、微笑ましい一句
な折そと折てくれけり園の梅
ザ・風流
情けなふ蛤乾く余寒かな
情けなふ、との置き方は今見ても面白くはないですか?あー情けない、トホホな感じが良い味です。
里の子や髪に結なす春の草
めでたい、みんな元気。春の字が子供を可愛く見せますね。
海の鳴る南やおぼろ朧月
カッコイイ句!鳴るが力強いです、おぼろおぼろ月となっているのがモコモコしてて良い。
欺いて行きぬけ寺やおぼろ月
うまい事言って、この寺を抜けてやったぜ、という俳句ですが、風流と言うか不審者と言うか。
声真似る小者をかしや猫の恋
ね、猫八さん(動物のモノマネ名人)!?あ、でも小者とあるから、その真似の真似ぐらいかな。僕は猫八さんの『盛りのついた猫』の真似が大好きです、あ、思い出し笑いが、あぁ暗い暗い、はい、太祇太祇と。
遅き日を見るや眼鏡をかけながら
見えません、古典的ギャグでしょうか?でも・・・僕はなかなか面白いと思います。
小一月つつじ売り来る女かな
一ヶ月間だけ来る花売、毎日顔会わせるとだんだん挨拶とかするようになるんでしょうね、で、いつの間にか来なくなる、あぁあの娘さんは元気かしら、なんて古典的でしょうか?美しい句だと思います。
やぶ入や琴かき鳴す親の前
うんうん、立派になったね、と涙ぐむ両親、琴、が良いですね、泣かせますね。あまり関係ないですが、八木重吉の『素朴な琴』という詩を思い出しました。
大工まづあそんで見せつ春日影
子供に船の模型でもささっと作ってあげたのでしょうか、粋ですね。僕はぞっとするぐらい不器用なので、こういう場面をカッコいいなと思います。
不自由なる手で候よ花のもと
優しい挨拶句ですね、なんだか子規の、寒からう痒からう人に逢ひたからう、を思い出しました。
ふらここの会釈こぼるるや高みより
有名な一句ですね、山本健吉にして、『「会釈こぼるるや」とは、心にくいほどの手だれである。』と言わせたほどの俳句(引用は『俳句鑑賞歳時記』)、たしかに、こぼるる、よりこぼるるや、の方が声にだしても楽しいですね。
死なれたを留守と思ふや花盛
おーい、うまさんや、居るかい、なんでぇ、死んでやがらぁ、と言うような句、花盛がなんだか救いな感じがします。西行さんじゃないけど、あの世へ行くなら桜の頃が良いかなぁ。
長閑さに無沙汰の神社回りけり
ご無沙汰の飲み屋はありますが、無沙汰の神社、とは面白いですね。
春の夜や女をおどす作りごと
へへへ、怖いかぁ、とこういう事もやってみたい。あぁ島原なんだなぁと感じます。
行く春や旅へ出て居る友の数
あいつもあいつも元気かなぁ、僕も東京に居るとなんだかそんな事考えます。
物堅き老の化粧やころもがへ
この句がなんだかもっともリアルな島原の感じが出ていると思いませんか?今なら夕方あたりの歌舞伎町あたりですかね・・・
蚊屋に居て戸をさす腰を誉めにけり
色っぽい。
蚊屋くぐる女は髪に罪深し
この句、古典俳句ベスト10に入るぐらい好きです。島原の遊女の豊かな黒髪、うんうん、黒髪はなんとも罪深い、いやほんと。
麦秋や馬に出て行く馬鹿息子
このバカ息子ー!とこち亀の部長のごとく追ってくる父。どうでも良いけど、僕も実家に帰ると、よく父に言われます、馬鹿息子って、言わないで欲しい。
盗人に出会ふ狐や瓜ばたけ
うおっ盗んどる!?ドロボウも狐もびっくり。
風呂敷につつむに余る団かな
お手本のような写生句かなと、意味的にはただ事なんだけど、きちんと定型に納めるとこんなに良い句に。
めでたきも女は髪のあつさ哉
この句からも豊かな黒髪を感じます、あー、罪深い罪深い。
病んで死ぬ人を感じる暑さかな
ぞっとするリアルな暑さを感じます、やっぱり太祇の精神は繊細なんだなと。
勝逃の旅人あやしや辻相撲
もしやあいつはプロの相撲取りではないだか?強すぎるぜ、ただ者じゃねぇやな。
ユーモアたっぷり
送り火や顔覗きあふ川むかひ
送り火と置けるあたりが繊細ですね、ほのかな灯り。
秋さびしおぼえたる句を皆申す
あぁわかります、寂しい時は俳句が助けてくれる・・・はず
名月や君かねてより寝ぬ病
眠り薬利く夜利かぬ夜猫の恋
松本たかし
を思い出しました。
後の月庭に化物つくりけり
後の月が利いてると思います。名月なら化け物の感じがでないです。
石榴くふ女かしこうほどきけり
綺麗な指の遊女を感じます。僕なら石榴、かしこうできそうにない。
茄子売る揚屋が門やあきの雨
揚屋とは、広辞苑によると、遊里で、遊女屋から遊女を呼んで遊ぶ家。それを知ってると、とたんに良い句と思いませんか?
新米のもたるる腹や穀潰し
これも実家に帰ると良く言われます、穀潰し、言わないで欲しい。
どうあろとまづ新米にうまし国
良いですね、素晴らしい国、日本。まぁこの時代だから日本というか、ふるさとの事ですかね。
薬掘蝮も提げてもどりけり
ど迫力薬掘。
永き夜を半分酒に遣ひけり
ダメじゃん、いやいやでもそんなもんです。
寝て起きて長き夜にすむひとり哉
なんか突然離婚されたお父さんってこんな感じなのかなと。
玄関にてお傘と申す時雨かな
この句、カッコイイです!鬼平のような伊達な世界を感じます。傘出しておくれ、時雨の時期だねぇ、と言ったとか言わなかったとか。
なき妻の名にあふ下女や冬籠
これもドラマがありますね、その名が気になる。
僧にする子を膝元や冬ごもり
僧になる子のうつくしやけしの花
小林一茶
と比較すると面白いです。
いつまでも女嫌ひぞ冬ごもり
遊郭に居るとそんなもんですかね?
それぞれの星あらはるる寒さ哉
僕は初めて、
ことごとく未踏なりけり冬の星
高柳克弘
の句を読んだ時、太祇のこの句を思い出しました、どちらも大好きな句です。深読みすれば、宿命とか運命とか色々言えそうですが、ごちゃごちゃ言わずに味わえば良い句です。
足が出て夢も短き蒲団かな
ちゃんちゃん♪かわいい句。
鰒売に食ふべき顔と見られけり
この句、太祇の句ではトップスリーに入るぐらい好きです。なんだか、死ぬべき、と言われているような、ならず者のカッコ良さを感じます。本によっては、顔を、となっていたり顔と、とあったりしますが、僕は断然顔と、が良いです。
見返るやいまは互に雪の人
カッコ良すぎますね、ドラマです、こういうのが、こういうのが良いじゃないですか。
一対か一対一か枯野人
鷹羽狩行
も大好き。
うつくしき日和になりぬ雪のうへ
有名な一句、やっぱり、美しい、綺麗、楽しい、なんてのも使って悪い事はないと思います、ただしうまくはまっていれば。
大名に酒の友あり年忘
僕も大名とお近づきになりたい。
宝船わけの聞えぬ寝言かな
昔包丁を持った女の人が筏に乗って追いかけてくる夢を見て、その時は、うを〜と言っていたらしいです、あ、僕の話はいらないですか、すみません。
僕の文章はあまり皆様の参考にはならなかったでしょうが、あくまで太祇の句を楽しんでいただければと思います。実は入れたい俳句がありすぎて、今回は『太祇句選』からのみ選びました、つまり『太祇句選後篇』は手付かずですので、やりたい方がいれば是非やってみてください。太祇という作家は、こんなに面白いのだから、どこかの出版社から、サクッと読める文庫本でも出してもらえないでしょうか。そのうち・・・でないかなぁ。
えーと、たくさん太祇は関連本があると思いますが、我が家の本棚にあるやつは僕でも読めるものなので、研究者向きではなく読みやすいと思います。
いくつか紹介させていただきますと
有明堂書店『名家俳句集』
非売品となっているので・・・頑張って手に入れてください。
山本健吉著『俳句鑑賞歳時記』
これを読むと太祇が贔屓の作家だと気付くはずです。
荏原退蔵著『俳句評釈』
これは名著、よく出来てます、角川文庫で上下巻とあるのですが、この二冊でさくっと古典俳句のおいしい部分を学べます、ただ・・・、頑張って手に入れてください。
小学舘発行、日本古典文学全集42巻『近世俳句俳文集』
これは収録数が少ないわりに引用句のチョイスが素晴らしい、説明も丁寧、一家に一冊、ただ・・でかくて重い。
角川書店発行、栗山理一著『俳諧の系譜』
横になって読める本ではないですが、丁寧なお仕事かなと、タイトルの渋さが良いです。
講談社文芸文庫発行、正岡子規著『俳人蕪村』
これなんか薄いし、さくっと手に入りさくっと読めます。
高浜虚子著『俳句読本』
さくっと俳句の歴史を学ぶ事ができます、古典を読みたい気分の時はこれを一冊鞄に入れておけば十分です。
えーと、これぐらいにしておきます。是非太祇百句も見ていただければ幸いです。
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2010-07-04
たいぎであった 西村麒麟
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1 comments:
さだまさしコンサートで炭太祇の句が紹介されていたので検索して、拝読させていただきました。 仰る通り、自分自身のために創作している気楽さを感じます。飄々としながら深い!素晴らしいですね。
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