林田紀音夫全句集拾読 134
野口 裕
昼の月濃く陸橋のついのひとり
池に濃い夕ぐれ少女たち翔びさり
山上へ灯が濃く都市の夜に加わる
昭和四十七年、未発表句。同一ページに「濃」が三句ある。一句目を通り過ぎていたが、二句目に目がとまり、この三句のあるのに気が付いた。
通り過ぎていたことからわかるように、一句目はさほどでもない。二句目の少女は妖精のおもむき、三句目は都市の夜景の活写として面白い。以前のページに遡って調べると、「濃」の字があちこちに散見される。ここに上げることは省略するが、「濃」が紀音夫の愛用する語のひとつであったことは間違いない。
では、「濃」の反対語となる「淡」はどうかというと、二.三十ページをざっと見た限りでは出てこない。「淡」の代わりをつとめるのが「薄」だが、「濃」に比べると頻度は小さい。
「鉛筆の遺書」が強烈な印象を持ち、鉛筆の字は淡いだろうとの先入観から、紀音夫の好みは「淡」にあるだろうとなんとなく思いこんでいたが、事実はそうではないようだ。ちょっとした発見だった。
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テトラポットの昼ひつそりと昨日の影
昭和四十七年、未発表句。テトラポッドと表記するのが正しいようだ。ちょっと注目したのは、蕪村の「凧きのふの空のありどころ」と句の着眼点が似ているところ。蕪村の着眼を現代的な風景に置き換えるとこうなる、というところ。句に内蔵される感傷は異なるが。
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2010-09-26
林田紀音夫全句集拾読134 野口裕
Posted by wh at 0:05
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