商店街放浪記38
大阪 天満市場周辺 Ⅰ
小池康生
<市場>という言葉は、色褪せない。
市場と書くだけで、人やモノや生命力で溢れてくるから不思議だ。
東京は築地市場が遊び場としても観光地としても根強い人気であるが、大阪では、今、天満市場周辺がアツいのだ。
日本一長いといわれる天神橋商店街。
その五丁目あたりを東に逸れたすぐのところに天満市場があり、その界隈がまるでアジアの一角のように独特なアツさを持ち始めているのだ。
十代の頃、陽が落ちてネオンを見るだけで血が騒いだものだが、近頃、夜の街を見て興奮するなんてことはとんとないのだが、天満市場界隈は、夜の街の興奮を思い返させてくれる。エネルギーを生みだす空間ができあがっているのだ。
路地裏荒縄会であったのだ。
今回の幹事はわたしである。
最初は北新地を歩こうと考えていたのだ。
北新地を商店街と捉えるのは面白いのではなかろうかと企画を進めていたのだが、数日前、仕事帰りにたまたま天満市場界隈を歩き、
「改めて、ここいらを、夜にじっくり歩きたい・・・」
と思ったのだ。
北新地集合を、突然「JR天満駅集合」と変えた。
天満駅の改札を出て北にあがると、そこからすぐに、<天満市場界隈>となるのだ。
ちなみにこの駅を西側に数秒歩くと、天神橋商店街となるのだ。
筆ペンさん、赤れんがさん、九条DX、赤ペンことわたくしの四人が集まる。
ペーパーさんとマルイチさんは、遅刻の報せ。
駅から北にあがる細い路地を歩きだす。
歩きだすなり、赤レンガさんが、奇声を上げる。
「わーっ!」
なにごとだ?
「赤レンガやぁ・・」
自分のニックネームを呼んだのかと思ったが、そうではなく、指さしたところに赤煉瓦の壁があった。
北に進んでいる細い通りの左側には色々な商店、飲食店が並んでいるが、右側は全て壁。その壁の下三分の一が赤煉瓦なのだ。
赤れんがさんは大喜びだ。目敏い。
しかし、この壁は何?なんどか通った道だが、この壁に疑問を持ったことはない。他者の視線は、こちらの視点も変えてくれる。
壁の途中に<天満市場>と記された出入り口があり、それは封鎖されている。
現在の天満市場ここではない。
後日調べて分かったことがある。
ここは、昭和24年に天満市場が再建された場所なのである。
元東洋紡紡績天満工場跡。この赤煉瓦は、その紡績工場の名残りだろう。
路地を進むと、四つ角、ここを右に曲がると、直ぐ北に<ぷらっと天満市場>がある。高層ビルである。上はUR都市機構のマンション。
地下と一階が、市場である。魚屋、肉屋、青物、地下のスーパーは鰐の肉やガチョウの肉の加工品などプロ仕様のものが置いてある。
このビルを抜けると、従来の天満市場。低いアーケード、うす昏い空間、専門的な店舗、気合いと喧騒、期待と緊張、市場という文字の持つエネルギー。ここが面白い。いわば街の丹田である。
各種専門店があり、飲食店も多い。飲食店の多くはドアがなく、イケイケであるし、風除けのビニールシートがかけられる程度で、この辺りのキーワードは、<オープン>である。
この開けっ広げな感じが、祭り気分を盛り上げているのだ。
市場をうろうろして、元の赤れんがに続く路地のさらに北側を歩くと、飲食店が盛り上がる。早朝には市場出入りの車輛が行き交うのだろうが、夜はクルマが通らず、界隈の飲食店は、店の前の道路にテーブルや椅子を並べる。
これがまた祭り気分を盛り上げる。
オープンカフェなんて似会わなかった日本人がいまやそれを自然な景として取り込み、天満市場界隈では、ワイン片手のテーブルも道路にはみ出しても自然である。亜細亜だ。残暑の暑さにぴったしかんかん。誰もが自然にこの喧騒やくだけた感じの中でグラスを傾け談笑している。日本の市場が更新されている。
『おおっ』
路地裏荒縄会のメンバーも燃えてきた。
どこに入ろうか、店を物色しはじめている。
「なんか、気分アガルよね」
「アガルアガル」
決して若くない面々が、祭り気分上昇中である。
さぁ、遊ぼう。
わたしが幹事である。多少の予習はしてある。
一軒では済まない夜である。
秋暑し音のしそうな付け睫毛 向 和子
(続く)
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2010-09-26
商店街放浪記38 大阪 天満市場周辺 1
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